図1 iSCAN®のシステム構成図2 基板異常の例図3 ムラモニタの構成図日本製鋼所技報No.74(2023.11)製品・技術紹介 1. はじめにエキシマレーザアニール(ELA)装置は、レーザ照射によってガラス基板上に成膜されたアモルファス(非晶質)シリコン膜をポリシリコンへと改質する装置である。高精細パネルの駆動部であるTFT(薄膜トランジスタ)には低温ポリシリコンが広く用いられており、スマートフォン、車載モニタ、携帯型ゲーム機などの高精細パネルの製造に欠かせない装置である。ELA装置のような生産設備において、パネル製品の品質異常に対する早期検知機能、装置のダウンタイム抑制は重要なファクターである。当社においても、ELA装置の安定稼働並びにプロセスの品質を維持するために、生産支援システムiSCAN®(intelligent SCANning)を開発し、運用を開始している。("iSCAN"はJSWアクティナシステム株式会社の登録商標です。)iSCAN®のシステム構成を図1に示す。iSCAN®は様々な計測デバイスと、そこから取得したデータを分析するソフトウェア群で構成されている。データは客先のホストPCに集約され、VPN(Virtual Private Network)経由でクラウドにアップロードされる。収集したデータはフィルタリング、変換などの前処理を行った上で分析用の時系列データベースに保存される。また客先は、データ分析結果や異常検知結果を、インタラクティブなダッシュボードで確認することができる。今回はクラウド上でのデータ分析にフォーカスし、iSCAN®の代表的な機能である、基板画像の異常検知、時系列データ可視化/分析アプリの2つの機能について紹介する。(104) 2. 深層学習を用いた基板画像の異常検知レーザアニールのプロセスでは様々な要因から基板に異常が生じる場合がある。図2に示すのはその一部で、レーザのエネルギーが強すぎると発生する膜飛び異常、基板上のパーティクル、ムラ、きず(基板割れ)などが挙げられる。異常が発生している状態で生産を続けた場合、不良品が生産され続け、歩留まりの悪化を招く。これを阻止するために、インラインで基板の画像から照射異常を自動的に検知するシステムが必要不可欠である。従来のELA装置では、照射後の基板画像の撮像を行うために、ライン型照明とラインカメラを用いた検査システムである、ムラモニタを組み込んでいる(図3参照)。そこで今回はELA装置の画像撮像システムのムラモニタに、新しく深層学習を用いて撮像した基板の異常検知を行うシステムを開発した。画像データの前処理や水増し、AIモデルの学習には、Pythonのオープンソース深層学習ライブラリであるPyTorchを使用した。Pythonには、TensorFlow, Keras, Chainerなど様々な深層学習用ライブラリがあるが、その中でもPyTorchは、直感的にコーディングでき、かつカスタマイズ性が高く、AIモデルの柔軟な設計が可能などのメリットがある。本検証では、AIモデルの学習には、事前学習済のモデルのパラメータを初期値として利用するファインチューニングと呼ばれる手法を使用した。画像の特徴抽出に長けた事前学習済モデルに対して、新しく目的のタスク用の画像を再学習させることで、ランダムに初期化された重みでゼロからネットワークに学習させるよりもはるかに少ないデータ量、時間で学習を実施することができた。製品・技術紹介生産支援システムiSCAN®~ELA装置の異常診断~生産支援システムiSCAN®~ELA装置の異常診断~
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