日本製鋼所「技報74号」
109/114

学習したAIモデルで未学習の基板を評価した結果、今回のテストではAIの分類精度は94.6 %となった。課題としては、全体的にきずの誤検知で判定精度が下がってしまっている。これは基板にもともとついているパターンや基板端の部分をきずと誤検知しているのが原因である。今後は、誤検知を防ぐための前処理、教師データ作成方法の見直しを実施し、AIモデルの精度改善を行う所存である。またAIの判定処理時間に関してはGPU使用時に4.9秒となり、目標の10秒以内を達成することが出来た。 3. 時系列データ可視化/分析アプリ次にELA装置のビッグデータの可視化/分析アプリを紹介する。客先の生産ラインの歩留まり向上、ダウンタイム削減には、異常発生時に異常の原因を早急に特定し対処することが重要となる。現状は客先から異常と関係がありそうなログデータを送ってもらい、経験豊富なエンジニアがカン/コツで対応しており、場当たり的な対応となっている。そのため、属人性を排除し、機器のセンサーから異常の兆候が見られた場合、オペレータに自動で状況を知らせ、また推測される異常の種類と、どのセンサーからの予知であるかを可視化する異常検知システムが求められている。今回はファーストステップとして、事後分析用データ可視化アプリを開発した。ELA装置では、当装置に搭載されたムラモニタによるムラスコアと、その他にもレーザエネルギー、光学パラメータ、温度、圧力、流量などの1000個以上のパラメータを毎秒記録している。今回開発したデータ可視化アプリでは、上記すべてのデータを一括で読み込み、時間変化を可視化することができる。図4にデータ可視化アプリの画面を示す。このアプリでは読み込んだデータの時間軸に対して、「正常時」、「異常時」のラベルをつけることができる。そのうえで左下の「表示変数選択部」で変数を選択することで、選択したパラメータの時間変化をプロットすることができる。また定義した「正常時」、「異常時」のデータは色分けして表示されるため、異常発生前後のパラメータの変化を確認しやすくなっている。また本アプリではデータ可視化だけでなく、異常原因のパラメータ特定機能も内包している。さきほど定義した「正常時」、「異常時」の区間において読み込んだパラメータの特徴量(平均、ばらつき、変化量など)を計算し、「正常時」と「異常時」で差分の大きいパラメータをランキングで表示することができる。実際に過去の客先のトラブル発生時のログデータを用いて、異常原因パラメータ特定機能の検証を行った。ELA装置では複数台のレーザの発振を同期させているが、2台のレーザの発振タイミングのずれ量を示すパラメータであるSync Devが高くなっており、その結果最終製品に不良が発生した、という異常である。トラブル前後のログデータを実際に本アプリで読み込み、「正常時」、「異常時」区間を設定し、異常原因パラメータのランキング表示を行った。その結果、レーザのSync Devは異常寄与度がランキング上位に来るほど高くなっており、異常原因のパラメータを特定できていることがわかる。また「正常時」、「異常時」区間のSync Devをプロットした結果を図5に示す。青色が正常時、赤色が異常時を表している。正常時のSync Devが2 ns以下に収まっているのに対して、異常時は3~5 nsと大きくなっていることがわかる。よって本アプリの異常原因特定機能を用いて、客先の不良の原因を特定することができたといえる。 4. おわりに今回紹介した機能・技術はiSCANRの一部であり、iSCANRは進化し続ける枠組みである。iSCANRはすでに最新装置に導入しており、客先で運用を開始している。客先の生産データをクラウドにアップロードし、リアルタイムで装置の稼働状況を監視することで、装置のダウンタイムの削減、パネル製品の品質向上に貢献する。今後は客先からのフィードバックをもとにこれらのソフトウェアを改善し、客先にiSCANRの有用性を実感していただき、ELA装置の拡販及びサービス品質の向上に繋げていく。図4 データ可視化アプリの画面図5 Sync Devの時間変化(105)製品・技術紹介製品・技術紹介

元のページ  ../index.html#109

このブックを見る