サファイアは、負の一軸性結晶であり、正の一軸性結晶である水晶と貼り合わせることで、異常光と常光の屈折率差を双方の基板で打ち消しあうことができる構造となる。構成2では、コンパウンドゼロオーダー波長板の構成に光軸を基板面に垂直としたZカット板を1枚追加し、3枚の構成とした。Zカット板は、基板面に垂直に入射したときは常光と異常光の屈折率差がないが、入射角が変わると、2枚の水晶板の屈折率変化に対して位相差変化の影響を小さくする方向に屈折率が変化するため、2枚の水晶板の屈折率変化を打ち消すことができる構造となる。 3. 開発した波長板の特性と仕様従来の構成であるコンパウンドゼロオーダー波長板の位相差特性シミュレーション結果を図3に示す。基板面に光が垂直入射する場合を入射角0°とし、光軸方向から入射角10°で入射した場合を示した。水晶基板の厚み330 μm(波長550 nmのとき位相差1980°)と300 μm(波長550 nmのとき位相差1800°)を貼り合わせ、波長550 nmで位相差180°(λ/2波長板設計)となる構成の場合、入射角が10°ずれると位相差が±24°変化することがわかる。今回設計した構成1の水晶と(a)構造の模式図(a)構成1の模式図(b)入射角依存性模式図図1 コンパウンドゼロオーダー波長板模式図(b)構成2の模式図図2 入射角依存性を低減した波長板の模式図日本製鋼所技報No.74(2023.11)製品・技術紹介 1. はじめに波長板は、光を90°回転させた直線偏光や、円偏光に変換する光学素子として、プロジェクターなどの偏光制御が必要な光学機器に使用されている。これまで波長板の材料として安価な樹脂製のものが多く使用されているが、プロジェクターなどでは近年の輝度上昇、耐久性向上のニーズにより、耐熱性、耐光性に優れた無機材料の波長板への置き換えが進んでいる。無機材料の波長板としては、主に水晶が使われ、結晶軸(光軸)が直交になるように貼り合わせたコンパウンドゼロオーダー波長板が使用されている。しかし、水晶基板の厚みを数百 μmと厚くしているため、位相差の入射角依存性が大きくなるという欠点がある。この波長板では入射する光が完全な平行ではなく、拡がりを持っている場合に、光の利用効率が低下し、プロジェクターの輝度が下がってしまうことが課題である。そこで、波長板の材料を変更または組み合わせることで、位相差の入射角依存性を低減した水晶波長板を開発したので報告する。 2. 入射角依存性を低減した水晶波長板の構成波長板は、常光と異常光の屈折率差を利用し、光の偏光を制御する。通常、2枚の水晶板の光軸は基板面に平行とし、光路は基板面に垂直に入射することを想定して設計している。基板面に対する光の入射角が変わると、常光と異常光の屈折率差が変化し、位相差のずれが生じる。常光と異常光の屈折率差は光軸方向が最も大きく変化し、光軸直交方向では屈折率は変化しない。入射角依存性を低減させるために2種類の構造について設計を実施した。入射角依存性が大きいコンパウンドゼロオーダー波長板の模式図を図1(a)に示す。コンパウンドゼロオーダー波長板は正の一軸性結晶である水晶2枚で構成されており、厚み数百 μmで光軸が直交される構造となっている。この波長板の構造では、図1(b)のように入射光が拡散され基板面に斜めになると、屈折率差の変化が生じるため、出射光が想定外の楕円偏光となる。この問題を解決するため、図2に入射角依存性を低減させた波長板の構造の模式図を示す。構成1では、水晶とサファイア基板の2枚構成となる。(106)製品・技術紹介入射角依存性を低減した水晶波長板入射角依存性を低減した水晶波長板
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