データベース駆動型制御を用いた巻取機におけるフィルムの張力制御コントローラ開発2.1 巻取時の製品不良2.2 ウェブの張力制御(8)用することで、複雑なシステムにおいても装置が故障することなく、システムの妥当性を検証することができるため、製品の性能向上が可能となる手法である。当社は、MBD手法を活用した制御システムの開発に取り組んでいる。一般に、現在の産業界では、制御パラメータの調整が容易であるなどの理由からPID制御が広く用いられている。しかしながら、制御対象となるシステムの多くは非線形性を有しているため、固定の制御パラメータによるPID制御器では常に所望の応答を得られるとは限らない。紙やプラスチックフィルムなどのウェブを搬送してロール状に巻き取る装置(以降、巻取機)においても、しわや巻きズレなどを抑制するためにウェブの張力制御を行っているが、駆動ロール間での相互干渉や、巻き太りによるシステム変動などによる非線形性を有しており、制御パラメータを決定することが困難である。このような背景から、非線形システムの制御対象に対して制御パラメータであるPIDゲインを逐次更新する手法の1つとしてデータベース駆動型(Data Driven:DD)PID制御(1),(2)が提案されている。データベース駆動型PID制御では、まず取得可能な入出力データとそのときのPIDゲインを1セットとしてデータベースを作成する。そして、現在のデータとデータベース内のデータの比較を行い、現在のデータと類似度の高いデータを参照してPIDゲインを逐次決定・更新する。本取り組みでは、巻取機を対象として、ウェブのしわや巻きズレなどの製品不良を未然に防止する制御システム開発を行う。その最初のステップとして、それらの製品不良の原因として考えられているウェブの張力に着目し、広島大学大学院先進理工系科学研究科システム制御論研究室の山本教授と共同でウェブの張力制御にデータベース駆動型PID制御を適用した張力制御システムの開発に取り組んでいる。本稿では、高精度な巻取機制御システムの開発について述べる。図1 MBD手法によるV字プロセス二軸延伸フィルム製造ラインを図2に示す。巻取機は、上流にて製造されたフィルムを搬送し、ロール状に巻き取る装置である。上流で製造されたフィルムの品質を変えることなく、製品不良がないように巻き取る必要がある。ウェブを巻き取る上での重要な要素の一つに巻固さがある。巻固さは材料そのものの硬さ、巻層間に含む空気の量、巻上げ後の残留張力による締め付け圧力、フィルムの摩擦係数などによって決まる要素である。図3に巻固さが影響する代表的な製品不良を模式的に示す。スターディフェクトは、ロール内部でのウェブの座屈現象が原因で生じる製品不良であり、巻固さが過剰な状態で発生しやすい。テレスコープは、ロール内のウェブ層間のスリップが原因で生じる製品不良であり、巻固さが小さい状態で発生しやすい。ゲージバンドは、ウェブの幅方向の厚さムラがある場合に生じる製品不良であり、こちらは巻固さが過剰な状態で発生しやすい。これらの製品不良には、トレードオフの関係があるため、製品不良を防ぐためには最適な条件で巻き取る必要がある(3)。ここでは、これらの製品不良に大きく関係するウェブの張力に着目し、目標張力に追従するような張力制御コントローラについて考える。本開発の取り組みを進めるにあたり、広島中央サイエンスパークに実機検証用の巻取試験機を設置した(図4)。巻取試験機の構成概要図を図5に示す。本装置は、駆動ロールが巻出軸、フィードロール1、フィードロール2、巻取軸の計4本で構成されている。これらの駆動ロール図2 二軸延伸フィルム製造ライン図3 代表的な製品不良2. 巻取機概要
元のページ ../index.html#12