日本製鋼所「技報74号」
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マグネシウム合金射出成形機を対象とした連成解析技術の構築近年、脱炭素社会へ向けて、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を抑制する取り組みが世界的に進められている。二酸化炭素排出量の多くを占める自動車は排出量削減を求められており、各自動車メーカーは、燃費の向上を目的として電動化や車体の軽量化などに取り組んでいるため、車体構造部材などにアルミニウムやマグネシウム、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics:CFRP)などの軽量素材の採用が進められている。その中で、電磁シールド性や放熱性に優れるマグネシウムは、構造部材だけではなく、メーターケースやヘッドアップディスプレイの筐体などへの採用も進められており、今後さらに需要が増加していくと予想されている(図1)(1)。マグネシウム合金を用いた製品は、主としてダイカスト法やチクソモールディング法により製造されているが、当社ではチクソモールディング法を用いたマグネシウム合金射出成形機(以下、MG成形機)を製造・販売している(図2)。チクソモールディング法は、マグネシウム合金チップをシリンダ内で加熱・溶融して金型内に射出することにより製品を成形する方法である。ダイカスト法に比べて溶湯温度が低いことから、凝固収縮が小さく製品の寸法精度が高いといった長所がある。一方で、マグネシウム合金の凝固時間は非常に短いため、プラスチックの射出成形と比べて、射出の高速性、高加速性が求められる。そのためMG成形機では、射出ユニットの動力として油圧機構を採用することによってこれらを実現している。この油圧機構は、複数の機器が組み合わされた構成であるため、各機器が流体を介して互いにどのような影響を及ぼしているかの予測が難しく、実機による試験を実施せずに動的挙動を定量的に把握することは困難であった。ここで、近年、モデルベース開発(Model Based Development:MBD)手法(2)が注目を集めている。本手法は、コンピュータ上で作成したモデルを活用して、数値解析で装置の挙動を表現することによって性能・品質を試作前に予測することで開発速度の向上を期待できる開発手法である。当社は、広島大学大学院先進理工系科学研究科システム制御論研究室の山本教授と共同でMBD手法を導入し、自社製品の装置開発に展開する取り組みを進めている。その取り組みの一環として、油圧機構を制御するバルブの流動特性を三次元流体解析結果から抽出した数式モデル(1Dモデル)を作成して、当該1Dモデルを組み込んだ油圧回路モデルが実機の動的挙動を良好に表現できることをこれまでに確認した(3)。そこで本開発では、油圧回路モデルを制御モデルとして用いつつ、射出ユニットの三次元形状を考慮した機構解析、構造解析および流体解析と組み合わせることで、射出ユニットの動的挙動を予測する連成解析手法を構築した。本報では、連成解析におけるモデリングと、実測データに基づく解析の妥当性検証を行った結果について報告する。一般的に、製品開発は図3に示すV字プロセスに従って進められる。MBD手法では、開発の初期段階である製品企画や基本設計の段階から、製品や部品の機能を表現した数式モデル(1Dモデル)を用いた数値解析による検討を行うことで、製品開発の手戻りを防ぎ、開発速度の向上や試作コストの低減を実現することを最大のメリットとする。一方で、1Dモデルを用いた数値解析を高い精度で実現するためには、対象のメカニズムを把握して数理的に記述することが必須である。そのためには、三次元形状を考慮した種々の数値解析や実機試験による検証が基盤として必要になる。図1 自動車を構成する素材の変遷と予想図2 マグネシウム合金射出成形機1. 緒  言(16)2. MBD手法と連成解析技術

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