日本製鋼所「技報74号」
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3.4 流体モデルについてマグネシウム合金射出成形機を対象とした連成解析技術の構築同時に、受圧面に作用する圧力は弾性体要素を介して接続点に集約されるため、流体モデルで算出した圧力を機構モデルに共有することができる。流体モデルでは、流入・流出ポートの作動油が入る領域をモデリングした。流体モデルを図10に示す。流体モデルの特徴として、射出ピストンの動きに合わせて解析領域を変更するように構成した。具体的には、射出シリンダの内側を表現する円柱形状の領域(射出シリンダ側領域)と射出ピストンの外側を表現する円筒形状の領域(射出ピストン側領域)を作成して、これらの重複する領域を解析領域とした。加えて、射出ピストン側領域の内面を受圧面として構造モデルの変位を共有することで、射出ピストン表面の変形と剛体変位が流体モデルに反映される構成とした。ここで、実機の射出ピストンは射出シリンダと径方向の隙間を持った状態で動作するが、隙間からの漏れ量は少ないことから、流体モデルでは径方向の隙間を設けず、流入ポート側と流出ポート側が独立したモデルとした。また、流出ポートBは流入ポートや流出ポートAと比較して流量が少なく、バルブ等を介さずにアキュムレータとタンクに直結する流路であるため、簡易形状によるモデリングとして流出口に一定圧力を作用させた。解析にあたり、MG成形機の射出動作は高速性・高加速性が大きく作動油の圧縮性を無視できないため、圧縮性粘性流体として定式化を行った。流体の密度ρ、圧縮率β、および粘性係数μは作動油の特性に倣った。また、受圧面を除く全ての壁面は滑りなしとした。図10 流体モデル連成解析の妥当性を検証するために、解析結果と実機で計測したデータとの比較を行った。計測にはJLM1300-MGⅡeLを用いて、射出スクリュを装着せずに射出ピストンのみで射出動作を行った。結果を図11に示す。比較する項目として、射出ユニットの主たる性能である射出ピストン速度と、射出ピストンの挙動を決める要因となる流入ポート圧力と流出ポートB圧力を選定した。まず、射出ピストン速度について、最大値は解析の方がやや過大なものの、加速の挙動や定速で動作する領域の挙動はよく一致した。一方で、流出ポートAの閉鎖開始から射出ピストンが停止するまでの挙動については、実機と比較して振動的な挙動となった。次に、流入ポート圧力と流出ポートB圧力についても、加速の挙動や定速で動作する領域の挙動は比較的よく一致した。一方で、流出ポートAの閉鎖開始から射出ピストンが停止するまでの挙動については、流入ポート圧力の最大値が解析では小さいことに加えて、流出ポートB圧力に振動的な挙動が見られる点が、実測データと乖離していることが分かった。解析結果と実測に乖離が見られた原因として、流出ポートA閉鎖以降の圧力挙動に乖離が見られたことから、流体モデルで流出ポートAの断面積を時間的に変化させる手法に問題があった可能性がある。また、射出ピストンと射出シリンダの隙間からの漏れ量が少ないと考えたが、流出ポートA閉鎖以降は漏れ量の割合が相対的に大きくなるため、無視できなくなった可能性がある。ただし、実機の隙間寸法は非常に小さく流体モデルのメッシュ分割が難しくなるため、そのままの形状での解析は現実的ではない。そこで、図12に示すように本来より隙間寸法を大きくしたモデルについて、ダルシー則に基づく流動抵抗の補正を加えたナビエ・ストークス方程式を適用することが考えられる。今後、流入・流出ポートの時間的な圧力挙動を表現できるよう解析手法の検討と実機検証を進める。最後に、連成解析の結果例として、射出ピストンの応力状態と流出ポートからの流れの様子を図13に示す。ここで、MG成形機では射出動作時に作動油が瞬間的に高圧になることから、射出ピストンに生じる動的な応力状態を高精度に予測したい、という設計上の要望がある。連成解析では、射出ピストンの動きに合わせて動的な応力状態を表現できることはもちろん、作動油の速度ベクトル等も表示できることから、これまで難しかった機械部品と作動油の相互作用を視覚的に把握することが可能となり、設計を行う上で大きなメリットになり得る。(19)4. 連成解析の検証

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