Ni基超合金IN-100の高温変形におけるプロセスマップ一般的にAl合金におけるSPD加工等の、真ひずみが3を超えるような巨大ひずみ加工において報告されている現象である。したがって、本研究の真ひずみ条件においては、変形の進行に伴い、これらの<101>配向領域にはcDRXは発生せずsub-grainの発達が進行していくと考えられる。ひずみ速度が0.1 s-1に増加すると(図9(c, dおよびh))、バンド領域界面の微細な動的再結晶粒の割合と、再結晶粒径は共に減少する。一方、伸長した粗大結晶粒の割合は増加し、結晶粒内のsub-grainはより顕著に認められる。粗大結晶粒のGAM値は高く、方位差分布も0.01 s-1と同様の変化傾向を示した。ひずみ速度が1 s-1に増加すると(図9(e, fおよびi))、GAM値> 0.2を満たす動的再結晶粒のサイズは0.01 s-1のそれより大きくなる。また、GAM値は0.2~0.4の範囲に分布し、0.01 s-1および0.1 s-1の値に比べて小さくなる。これらGAM値の低い結晶粒中には、sub-grainの形成はほとんど認められない。図9(i)の方位差分布より、これら結晶粒(A)中の方位差分布は1°未満であるのに対し、伸長した結晶粒(B)中の方位差は、0.01 s-1および0.1 s-1と同様に、連続的に増加した。したがって、これら低GAM値の結晶粒はほとんどひずみを伴わずに形成されたものであり、加工後に室温までの冷却過程で直ちに再結晶したメタ動的再結晶(mDRX)により形成されたものと考えられる。以上の変形組織観察結果より、<001>配向したバンド領域の間や界面では動的再結晶粒が形成しており、この領域が変形組織形成に重要な役割を担っていると考えられる。バンド領域の結晶形態的特徴より、この領域は一種のキンク帯と考えられる。キンク帯はhcp構造を有するMg合金で主に報告されているが(20),(21)、Mn鋼(22)やCu合金等(23)のfcc構造を有する合金でも報告されている。また、bcc構造のハイエントロピー合金でも報告されており(24)、以下の過程で形成される。今、単軸応力下の変形において、主すべりのみにより変形が進行するものと仮定すると、応力軸と主すべり方向との傾きにより、変形に伴い応力軸がすべり方向に傾こうとするが、つかみの拘束によりこの運動が制限される結果、すべり面には曲げモーメントが生じ、すべり面は塑性的に湾曲する。高村はこれを湾曲すべり(bend gliding)と名付け、主すべり系の活動の不均一性により、このような変形領域は試験片端部のみならず、試験片のどの部分においても生じると述べている(25)~(30)。湾曲すべりの形成がこの領域への転位のランダム集積をもたらし、さらなる変形に伴うひずみエネルギーを緩和するためポリゴニゼーション化し、最終的には刃状転位群からなるキンク帯へと移行すると述べている。さらに、転位組織の詳細な解析において、キンク帯からはSchmid因子が0の転位群が発生する事実から、キンク帯界面における内部応力の発生を指摘しており、このことはキンク帯の形成がさらなる変形への抵抗となることを示唆するものと考えられる。一方、キンク帯は、曲げモーメントによるすべり面の湾曲を起源として、母相に対して回転した局所領域と考えられる。その回転軸方向(RA)は主すべり面内にあり、かつ主すべり方向に垂直となる。すなわち、RA//<121>方向である。図10に、図6(a)の視野上方における<001>配向領域の結晶方位解析結果を示す。図10(a)のIPFマップにおいて、視野左上から右下にかけてバンド状の領域が形成され、この領域は図中に示す[011]方位のトレースにほぼ垂直である。また、図10(b)には<121>方位のグレースケール表示に、白丸で示すバンドの組の各方位から3°の領域をそれぞれ異なるカラーで示す。バンドの伸長図10 1200 ℃×0.01 s-1の<001>配向領域における結晶方位解析結果 : (a)IPFマップ(b)CDマップ(<121>方位)および (c)<112>正極点図(29)技術論文
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