Ni基超合金IN-100の高温変形におけるプロセスマップ3.5.2 1100 ℃以下における高温変形挙動(30)方向に対する方位差の影響もあるため、各バンド方位を完全に分離することは困難であるものの、バンドは緑色の方位と青色の方位がおおむね交互に現れているものと判断される。また、図10(c)には解析視野の<112>正極点図を示すが、バンドの各方位は<112>方位に対して10°程度の回転関係を持ち、上記キンク帯回転軸における結晶学的方位関係(RA⊥{111}かつRA⊥<101>)と一致する。実際は変形の進行に伴う2次すべり系の活動も考慮する必要があり、さらなる検討が必要であるものの、湾曲すべりを起源とする安定なキンク帯の形成が本合金の変形挙動の特徴の一つと考えられる。上記を元にした本合金の1200 ℃における変形機構の模式図を図11に示す。1200 ℃において、変形により圧縮ひずみが付与されると、圧縮軸に対して、fcc構造における主すべり方向である<101>が並行になるよう結晶回転が生じる。これに伴い、上述の通り主すべり系の活動の不均一に起因して回転の進行度に差異が生じ、図10のようなバンド領域が形成され、さらなる変形によりキンク帯に移行する。キンク帯は初期方位に対して10°程度の方位差を有する一方、転位の発生源としてさらなる変形に寄与する。したがって、キンク帯自体は<001>配向傾向を有するバンド領域として安定に留まり、キンク帯界面から周りの母相にわたってsub-grainの形成から核生成・成長機構による不連続動的再結晶(dDRX)が生じたものと考えられる。ひずみ速度が増加すると、核生成・成長機構のため潜伏期を有するdDRXは遅滞する一方、sub-boundaryは発達を続ける。図4に示す真応力−真ひずみ曲線における真応力の上昇は、この傾向を反映しているものと考えられる。牧らは、巨大ひずみ加工(Severe Plastic Deformation : SPD)のような高Z変形下において、変形領域は等しく再結晶核となる能力を持ち、核生成密度が高い状態であると述べている(31)。したがって、本研究における1 s-1以上の高ひずみ速度の変形において、動的図11 1200 ℃における変形機構を示す模式図図12 異なる圧下率における1100 ℃ ×0.01 s-1のEBSD解析結果: (a, e)10 %, (b, f)20 %, (c, g)30 % and(d, h)45 %再結晶を生じるための臨界ひずみに容易に達すると予想される。その結果、加工後に核生成の潜伏期間を必要としないmDRXが生じたものと考えられる(32)。以上の組織形成過程とプロセスマップの対応から、図5に示す高効率領域はキンク帯の境界で形成されるdDRXに対応するものと考えられる。ひずみ速度が増加するとdDRXは遅滞するが、sub-boundary形成に伴う<101>配向領域中へのひずみの蓄積は進行する。プロセスマップにおける分散効率の低下は、このdDRXの抑制に対応するものと考えられる。図12に、種々の圧下率における1100 ℃×0.01 s-1のIPFマップを示す。図8と同様に、母相とΣ₃対応方位関係を有する変形双晶が、10 %の圧下率から既に形成され、圧下率の増加に伴いその数は増加する。また、圧下率45 %においては、これら変形双晶に隣接して数µmの微細なdDRX結晶の形成が認められた。したがって、1100 ℃以下では、塑性変形初期から変形双晶が形成され、その進行に伴い変形双晶界面等を起点に微細なdDRXが形成したものと考えられる。図4に示す真応力−真ひずみ曲線との対応から、変形双晶形成の臨界応力は400 MPa以下と推定される。(a-d)IPFマップおよび(e-h)IQマップ(図中黒線はS3対応粒界を示す)日本製鋼所技報No.74(2023.11)技術論文
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