Ni基超合金IN-100の高温変形におけるプロセスマップ図13に、次式で示すγε相変態の自由エネルギーから計算した積層欠陥エネルギー(SFE)を示す(33)。ここで、ΔGγεはγε変態の自由エネルギー、σγ/εはγ/ε間の界面エネルギーである。ρは(111)fccの原子面密度であり、以下の式で表される。ここで、aおよびNはそれぞれγ相の格子状数およびアボガドロ数である。aは計算から求め(34)、界面エネルギーには2σγ/ε=15 (mJ/m2)を用いた(35)。IN-100のSFEは900 ℃~1000 ℃の温度範囲で125-150 mJ/m2程度と見積もられ、変形双晶が報告されている中Mn鋼(36)やCo-Cr-Mo合金(37),(38)における数十mJ/m2程度に比べて大きい。FCC結晶における変形双晶の形成は、いくつかの{111}面における転位反応により生じ、臨界分解せん断応力は次式で与えられる(39)。ここで、τcrit は変形双晶の臨界分解せん断応力、btwinはShockley部分転位のBurgersベクトルである。nはいくつの連続した{111}上に変形双晶のembryoが形成されるかを表し、最もτcritが高くなる同一{111}状に双晶核が形成する条件の場合、n = 1/2(40)となり、τcrit ≈1931 MPaと見積もられる。 一方、テイラー因子を用いて、臨界分解せん断応力と引張応力の関係は以下で与えられる(41)。図13 IN-100の積層欠陥エネルギー計算結果ここで、図4の真応力−真ひずみ曲線よりσcrit = 400 MPaと仮定すると、実験結果より見積もった臨界分解せん断応力はτcrit≈131 MPaとなり、積層欠陥から見積もった値に比べて大幅に小さい。したがって、本合金の双晶形成機構は積層欠陥エネルギーのみでは説明できない。γ’析出強化型Ni基超合金における変形双晶の形成に関して、γ’相中への積層欠陥の形成を説明するmicrotwinning 形成モデルがKearらによって初めて報告された(42)。これは当初、せん断変形に伴い単独のγ’相中に形成されるSuperlattice Intrinsic Stacking Fault (SISF)を説明するため提案されたが、後に拡散による原子の再配列を伴う異なる形成機構がKolbeによって提案された(43),(44)。このモデルでは、γ’相中に存在する複雑な積層欠陥(Complex Stacking Fault : CSF)が、短範囲の原子の再配列により低エネルギーの積層欠陥になり、microtwinningが形成するとしている。(8)一方、Barbaらは(45),(46)、この拡散アシストによるmicrotwinning形成機構に基づき、microtwinning近傍のミクロ偏析をアトムプローブにより定量評価し、γ’中のmicrotwinning界面にはCo、Crが偏析することを見出した。さらに、部分転位に働く力から双晶形成の臨界応力を見積もり、偏析が存在しない場合、臨界応力は3000 MPa近くの高い値を示すが、偏析の存在によりこれは700 MPa程度まで大きく低下することを明らかにした。(9)以上の先行研究から、拡散アシストによるmicrotwinningの形成機構は次のように説明される。γ/γ’界面は転位運動に対する抵抗となるため、γ/γ’界面に到達した完全転位は2つのShockley部分転位に分解する。2つの部分転位のうち大きいSchmid因子を持つ方がγ’中に侵入し、microtwinning embryoが形成されるとともに、CSFを形成する。形成したmicrotwinning embryoが安定して存在するには、後続の部分転位が逆位相境界(APB)の形成を伴いγ’中に侵入するのに対して、γ’中における先行の部分転位が、偏析を駆動力としたCoやCrの拡散によりさらなる活動をする必要があり、この時microtwinningが形成する臨界応力は以下の式で表される(45)。(10)ここで、γCISFおよびγAPBはそれぞれintrinsicなCSF (CISF)およびAPBエネルギー、SFはSchmid因子である。すべりが優先的に生じてAPBが形成される場合、microtwinningは成長しないが、拡散アシストによりCISF の形成が支配的な場合、γCISFの低下に伴い臨界(31)(11)技術論文(12)
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