3.5.3 鋳造材とPM材における変形機構Ni基超合金IN-100の高温変形におけるプロセスマップ(32)応力が減少してmicrotwinningが成長する。Barbaの報告では、CoとCrの偏析が実験事実として示されたが、Kolbeの原子再配列機構では、γ’中のNi-siteとAl-siteの原子の置換によりCSFがmicrotwinningに変化すると説明されている。したがって、最も高水準のγ’形成元素を含み、γ’相体積率の高いIN-100において、上記機構が働くと考えることは妥当である。また、GuimierとStrudelによるWaspaloyに関する報告では(47)、γ’相の固溶温度以下において、γ’相内部から発生したmicrotwinningが存在するが、固溶温度以上ではこれらは認められないと報告されている。このことは、γ/γ’界面の存在が完全転位a/2[110]の分解を促進することを示唆し、上記microtwinning 形成機構の発現を支持する。以上のように、γ/γ’組織における変形双晶形成を示唆する報告が複数存在する。詳細な変形双晶形成機構についてはさらなる考察が必要なものの、本合金の高温変形の活性化エネルギーが比較的小さく、Niの自己拡散のそれに近いことは、1100 ℃以下の低ひずみ速度側では、拡散アシスト機構が変形双晶の形成に寄与していることを示唆する。また、偏析が存在する場合の双晶形成応力の計算値(約700 MPa)が、本研究において変形双晶が認められた応力水準(400 MPa)とおおむね近い値であることも、以上の機構の発現を支持している。本機構は通常の双晶形成機構とは異なり熱活性化過程であるため、高ひずみ速度側ではその発現が抑制され、ASBによる塑性流動の局在化による大割れが発生したものと考えられる。表3に、上記の組織解析結果に基づいた鋳造材の変形機構を既報のPM材(12)と併せて示す。また、PM材のプロセスマップを図14に示す。鋳造材の1200 ℃において、変形に伴いキンク帯が形成し、低ひずみ速度側ではキンク帯界面からdDRXが生じる。ひずみ速度の増加に伴いdDRXは抑制され、mDRXが生じるようになる。PM材では、低ひずみ速度側では粉末粒子界面からdDRXが生じ、高ひずみ速度では粒界割れが生じる。鋳造材の1100 ℃以下では、低ひずみ速度にて変形双晶の形成にてある程度変形可能だが、温度の低下、ひずみ速度の増加によりZener-Hollomon因子が大きくなると断熱せん断帯で大割れを生じる。PM材では鋳造材と同様に、高ひずみ速度側では断熱せん断帯での割れが発生し、低ひずみ速度側でも原料粉末の界面に存在する酸化物等の介在物を起点としたPPB (Prior Particle Boundary)割れが発生する。以上より、既存の鋳造材の熱間加工においては、大割れを避ける観点から1100 ℃~1200 ℃の高温かつ低ひずみ速度側での変形が望ましい。この鋳造材における限定されたプロセスウインドウは、配向性の高い粗大な結晶粒により、活動可能なすべり系が限定されることに加え、高い合金元素含有量に伴い、鋳造時にミクロ偏析部におけるγ/γ’共晶組織や、炭化物等の粗大な非金属介在物が形成すること等が影響しているものと考えられる。本研究では、難加工性Ni基超合金IN-100の、鋳造材における高温変形のプロセスマップを作成し、変形機構の特徴を明らかにした。以下に得られた結論を示す。(1)鋳造材の初期組織は、幅1 mm以上の粗大な柱状晶が平行に連なった一方向凝固組織であった。柱状晶界面の最終凝固部近傍にはγ/γ’共晶組織とそれに隣接してMC系炭化物が認められた。柱状晶内部には、1 µm程度のサイズの微細なγ’相の析出が認められた。(2)圧縮方向を柱状晶成長方向と平行として熱間圧縮試験を行った。真応力−真ひずみ曲線において、1200 ℃では、全てのひずみ速度において、ひずみの増加に伴い真応力は一定値に収束する動的回復(Dynamic Recovery : DRV)型の傾向を示した。一方1100 ℃以表3 IN-100鋳造材とPM材の変形機構図14 PM材のプロセスマップ日本製鋼所技報No.74(2023.11)技術論文4. 結 言
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