日本製鋼所「技報74号」
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2.1 試料調整二次介在物の生成メカニズム解明に向けた新しい解析手法の提案2.2 SEM-EDS自動介在物分析2.3 EPMA分析2.4 情報処理が困難であるが、二次介在物の形態、分布、組成といった介在物性状を制御することによって、無害化や品質向上に寄与することが可能であると考えられる。これまでの二次介在物に関する研究(1),(2)から、二次介在物の生成には凝固時のミクロ偏析が大きく影響することが解析的および実験的に示唆されている。しかしながら、介在物が存在する位置と、その位置におけるミクロ偏析の程度について、定量的に評価するような実験的研究は非常に限定的である。著者らは、Fe-36mass%Ni合金を対象として幅広い冷却速度での凝固試験を行い、SEM-EDS自動介在物分析技術を適用し、冷却速度と二次介在物性状(サイズ、数密度、組成)との関係性を詳細に調査した(3)。その中で、新しい解析手法として、SEM-EDS自動介在物分析によって得られる広範囲の介在物情報と、同じ分析領域のEPMA分析から得られるマトリックスの濃度分布(ミクロ偏析)とを関連付けることで、介在物一つ一つの情報(位置、サイズ、組成など)とその介在物存在位置におけるミクロ偏析について、広範囲の定量的評価を可能とした。論文(3)では本手法から得られる情報を基にして熱力学的な平衡論に則った二次介在物生成解析を行っただけであるが、本手法を用いることで二次介在物生成に関する物理現象(駆動力、拡散など)の影響評価や、凝固界面における介在物の捕捉/押し出しのメカニズムについての実証的調査が可能になると考えられ、二次介在物制御技術の発展に寄与することが期待される。本稿では、このSEM-EDS自動介在物分析とEPMA分析とを組み合わせることによって介在物情報とミクロ偏析情報とを関連付けた新手法について解説する。本手法は、【試料調整】→【SEM-EDS自動介在物分析】→【EPMA分析】→【情報処理】の順に実施した。SEM-EDS自動介在物分析とEPMA分析の順番は逆でも構わないが、本稿では上述の順に沿って解説する。二次介在物という微細な介在物を分析対象とするため、本手法の適用にはサンプル表面を鏡面に研磨し、洗浄して清浄な分析面を得ることが必要である。研磨方法に特段の指定はないが、論文(3)においては以下の方法で実施した。導電性樹脂にマウントしたサンプルについて、#220の湿式研磨(SiC)で面出しを実施してから、9 µmと3 µmのダイアモンドスプレーを用いて鏡面研磨し、最後にアルコール中で超音波洗浄を実施した。SEM-EDS自動介在物分析は、反射電子像のコントラストから介在物粒子を検出し、検出した介在物にEDS分析を実施することで、比較的広範囲の分析領域における介在物情報を網羅的に得る技術である。本論文における分析条件は以下の通りである。SEM-EDS(JEOL製、JSM-6610LA)を用い、分析領域を約20 mm2(5 mm×4 mm)とし、倍率200倍で反射電子像を撮影して、Particle Finder(JEOL製)を用いて自動的に介在物検出とEDS分析を実施した。介在物の最小検出サイズは1 µm2に設定し、検出した全ての介在物について反射電子像を目視で確認し、ボイドやコンタミなどの非介在物を除外した。EDS分析では、介在物が微細であるためバックグラウンドであるマトリックス成分も検出される。例えばFe-36mass%Ni合金の場合にはFeとNiも強く検出されるが、これらはEDS分析における定量元素から除外している。なお、著者らは以前に本介在物分析技術を脱酸平衡実験における精度向上のためにも利用しており、分析法の詳細や介在物検出例についても報告(4)している。SEM-EDS自動介在物分析後に、直ちにEPMA分析を実施することが望ましい。介在物情報とミクロ偏析情報を対応させるためには、両者が同一の試料表面を対象としていることが条件であり、試料表面の再酸化や汚染を防ぐためである。もちろん、試料表面の再研磨は同一表面にはならないため厳禁である。異なる分析装置で同一の視野を分析するために、例えば試料表面に圧痕を打って分析位置の印をつけるなどの工夫も必要に応じて実施してもらいたい。また、片方の分析視野を広く設定し、もう一方の分析視野がその範囲内に収まるようにすると、後述する情報処理の負担が軽減される。論文(3)では、SEM-EDS自動介在物分析を広く設定し、EPMA分析領域をその範囲内とした。また、EPMA分析析条件は以下の通りとした。EPMA(JEOL製、JXA-8530F)を用い、分析領域4 mm2(2 mm×2 mm)で分析点は5 µmピッチ(分析点400×400)の条件で、Ni, Mn, Si, Al, Oについてマッピング分析を行った。なお、微量元素であるAlとOについてはCount数のみの測定としている。まず、SEM-EDS自動介在物分析とEPMA分析、それぞれの分析座標を重ねる必要がある。これには、SEM-EDS自動介在物分析で検出された比較的大型の介在物と、EPMA分析における介在物組成の元素マッピ(37)2. 分析方法

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