二次介在物の生成メカニズム解明に向けた新しい解析手法の提案(38)ング(Al2O3系の大型介在物については、EPMA分析のAlとOを使用する)を用いて分析座標を調整するとよい。なお、EPMAの分析ピッチや分析精度の問題から、単一の介在物のみでは分析座標の正確な調整が困難であるため、複数の介在物についてSEM-EDS自動介在物分析による介在物検出座標とEPMA分析による介在物元素のピーク位置が重なるように、分析座標を微調整(XYシフト、回転)させることが好ましい。次に、介在物存在位置のマトリックス濃度を推算する。このマトリックス濃度はミクロ偏析の程度(固相率)を求める際の指標とする元素であり、論文(3)ではNiを選択した。これはNi以外のSi, Mn, Al, Oは介在物にも含まれることから、介在物とマトリックスとを分離して評価することが困難だからである。ここで、ある介在物を例としてEPMA分析によるNi濃度分布の1次元情報を図1に示す。EPMA分析によるバラつきの他に、介在物存在位置ではマトリックス組成が低く評価されている。そのため、介在物存在位置における濃度減少部位を除外しつつ、分析値のバラつきをスムージング(図中青曲線)することによって、介在物位置におけるマトリックス濃度を算出した。なお、ここでは簡略化のために1次元的に示しているが、実際には2次元的なスムージング処理を行っている。これによって、SEM-EDS自動介在物分析から得られる介在物情報と、その存在位置におけるマトリックス組成を対応させることができた。次に、マトリックス組成から固相率への変換についてはランダムサンプリング法(5)を採用した。EPMA分析における分析領域において、固相率分布が一様であると仮定し、ある元素(本稿ではNi)の濃度分布の累積相対分布を固相率fSとして扱った。EPMA分析点(400×400 = 160,000点)の分析値を低い順から高い順に並図1 介在物位置におけるマトリックス濃度の推算べたとき、ある分析点iの順位をniとすると、点iにおける固相率fSは式(1)によって定義される。すなわち、Ni濃度の低い領域は固相率の低い初期に凝固が進行した部位であり、Ni濃度の高い領域は固相率の高い末期に凝固した部位となる。なお、本稿にて特定の位置における固相率とは、その位置が凝固した時の固相率を示していることを注記する。なお、本稿および論文(3)ではNi元素のみの濃度順位を考慮したシングルソートであるが、合金系によっては複数元素のマッピング分析結果からWeighted Interval Rank Sort法(6)を用いて固相率推定の精度向上を図ってもよい。本手法を用いた分析例について論文(3)から引用して図2に示す。本手法を用いることで、このようにミクロ偏析と介在物情報(位置と組成)を対応させることが可能となり、例えば図2ではAl2O3 + MgO濃度の高い赤菱形で示した介在物は、Ni濃度の低い青~緑の部位に偏在しており、Al2O3 + MgO濃度の低い白丸で示した介在物は、Ni濃度の高い黄~赤の部位に偏在していることがわかる。さらに、2章で述べた濃度分布から固相率への変換を行うことによって、固相率と介在物組成の関係を図3のように得ることができる。本手法によって、固相率の増加と共に介在物組成が変化していくことが明瞭図2 分析例:Ni濃度分布と介在物位置の関係(3)日本製鋼所技報No.74(2023.11)(1)技術論文3. 分析結果と応用への期待
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