日本製鋼所「技報74号」
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二次介在物の生成メカニズム解明に向けた新しい解析手法の提案に確認できる。これらはミクロ偏析による溶質濃度変化を考慮した二次介在物生成の熱力学的解析において、その解析精度の評価や、さらなる解析技術の発展に重要な知見となることが期待される。また、図4は異なる冷却速度におけるサンプルに本手法を適用し、固相率と介在物数の関係を示したヒストグラムである。図4より、サンプルA(低冷却速度)では高固相率(fS > 0.8)にのみ介在物が存在しているのに対し、サンプルB(高冷却速度)では広い固相率範囲に介在物が存在しており、介在物存在位置に冷却速度依存性があることが明瞭に確認できる。このことは固相への介在物の捕捉(Engulfment)と排出(Pushing)に冷却速度が影響することを示唆しており、低冷却速度では凝固前面での介在物の排出によって高固相率域に介在物の偏在が生じたと考えられる。このような介在物の捕捉/排出挙動については介在物制御技術において重要な問題であり、解析的および実験的な手法による解明が試みられてきた。実験的手法としては例えばCSLM(Confocal 図3 分析例:固相率と介在物組成の関係図4 分析例:固相率と介在物数の関係(3)Scanning Laser Microscopy)を用いた調査(7)がある。しかしながら、CSLMでは微細介在物(< 10 µm)の挙動や溶鉄内部の介在物挙動については十分に評価することが困難であった。本手法では微細介在物についても挙動の把握が可能となるため、介在物の捕捉/排出挙動の解明に役立つことも期待される。以上のように、本技術はミクロ偏析(およびミクロ偏析から推算した固相率)と介在物情報(位置、サイズ、組成)を組み合わせることで、二次介在物生成の熱力学的解析から介在物生成の物理現象や介在物の捕捉/排出挙動の解明にも役立つことが期待される。なお、本手法はSEM-EDSによる介在物分析と、EPMAによるマトリックス分析を組み合わせたものであるが、EPMA単独で介在物分析とマトリックス組成のマッピング分析を両方実施することも可能である。しかしながら、本手法のようにSEM-EDS自動介在物分析とEPMA分析に、それぞれ異なる分析装置を用いることによって分析時間の短縮を図ることができる。例えば、EPMA単独で直列的に介在物分析とマッピング分析を行う場合と、SEM-EDSとEPMAを用いてそれぞれで機能を分割して並列的に分析を行う場合の模式的に図5に示す。このように複数の装置で並列的に分析を行うことで、多数のサンプルを対象とする場合には効率的に分析が可能となる。複数装置を用いる場合には、サンプル着脱の手間と時間が必要となるが、それぞれの分析時間が長期に及ぶような本手法の場合、並列化のメリットは大きい。また、並列化によって装置の占有時間を短縮することで、より柔軟な装置運用が可能となることも実務的には重要な要素となる。また、大型介在物やクラスター介在物の場合、介在物位置の固相率についてさらなる検討が必要となることを最後に解説する。本手法では介在物の中心座標を介在物位置として固相率の推定を行ったが、図6に示すように介在物がメタル液相中で生成し、凝固前面に捕捉される(a) 単一装置による直列分析、(b) 複数装置による並列分析図5 単一装置と複数装置による分析模式図(39)技術論文

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