大型鍛鋼品における空隙閉鎖評価式の検討(46)量が小さく、特に平金敷ではその傾向が顕著であった。これは、前パスで楕円形状となった空隙の長径方向を圧下する場合は短径方向を圧下するよりも空隙が閉鎖しにくいためと考えられる。ここで、従来より空隙閉鎖の評価に用いてきた静水圧応力比積分Gmの評価精度を検証するため、空隙モデルによる弾塑性解析で得られた1 - V/V0と中実モデルによる弾塑性解析で得られた空隙中心に相当する位置のGmを比較した。Gmは以下の(3)式で定義される。ここで、εeqは相当塑性ひずみ、σmは静水圧応力、σeqは相当応力であり、σmをσeqで除したσm/σeqは一般に静水圧応力比と呼ばれ、空隙閉鎖に関する評価因子のひとつとされている。静水圧応力比積分Gmの評価精度をFig. 14に示す。両金敷ともに各条件で閉鎖時のGmが異なっており、空隙閉鎖の閾値が一意に定まらなかった。特に、空隙が扁平変形しやすい平金敷では各条件におけるGmの閾値に大きな差があった。これはGmの計算に評価因子としてεeqを用いているためと考えられる。具Fig. 13 Void closure behavior of numerical experiments体的には、εeqは各方向の塑性ひずみ成分を1軸変換した値であり、偶数パスのように空隙閉鎖に対して有効ではないパスでもεeqが増加し、それに伴いGmも増加するため、Gmは多パス鍛造における空隙閉鎖の進行を過剰に評価していると考えられる。すなわち、空隙閉鎖の評価因子としてεeqを用いることは適切ではなく、従来より空隙閉鎖挙動の評価に用いてきたGmでは空隙閉鎖挙動を正確に評価できない。一方で、毛利らは空隙閉鎖の評価因子にはεeqではなく、圧下方向の真ひずみが適切であると報告している(2)(7)。そこで、圧下方向の真ひずみをεpとし、本数値実験における空隙体積減少率1 - V/V0と圧下方向の真ひずみεpの関係をFig. 15のように整理した。本数値実験では空隙がx方向に閉鎖したためεp=εxである。空隙閉鎖時のεpを空隙閉鎖の閾値とすると、本数値実験では温度分布が異なる場合はが一意に定まらなかった。これは、空隙閉鎖挙動にはεpのみならずσm/σeqも寄与しているためであり、予冷却条件では表層部に形成された冷却層の影響で内部のσm/σeqが増加し、均熱条件よりも少ないεpで空隙が閉鎖したと考えられる。すなわち、空隙閉鎖挙動を評価するためには、εpとσm/σeqの両方を考慮する必要がある。(3)Fig. 14 Relationship between the reduction of void volume and integral of hydrostatic stress日本製鋼所技報No.74(2023.11)技術論文
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