食品包装向け無延伸シート成形装置の要素技術とAI・IoT技術(56)などを用いた理論構築が難しく試行錯誤による経験的な成形調整に終止してしまう。樹脂を積層する方法として、図2に示すように、Tダイ内で樹脂を積層する方法(積層Tダイ方式)、フィードブロックと呼ばれる流路内で積層する方法(フィードブロック方式)の2種類存在する。積層Tダイ方式は、積層する樹脂を拡幅した後、積層するため各層の層比の乱れが少ないが、流路形状の変更が困難なため、層比や樹脂の変更などが困難であり、成形条件に制約ができる。一方、フィードブロック方式は、流路変更が比較的に容易で、層比変更や樹脂の変更が可能であるが、積層後に樹脂を拡幅するため、層比の乱れやフィードブロック内で生じた界面の不安定現象が拡大し、品質として無視できなくなる恐れがある。食品包装用途では、一つの機械で複数の品種を取り扱うため、フィードブロック方式を採用する場合が多く、不安定現象の対策は重要な課題の一つである。図3に樹脂を積層する際に生じる不安定現象の例を示す。典型的な不安定現象は2種類存在し、1つ目の不安定現象は、図3(a)に示す積層後の界面荒れである。この界面荒れは積層時界面の荒れが表面に伝播し生じるものであり、原因として、脂表面にジグザク模様が生じることで樹脂に生じるせん断応力の差が68 KPa以上(1)となる場合と、表面が波長の大きい波のような模様が生じる際、積層時の樹脂の流速差(1)の場合が考えられる。樹脂により生じやすい不良が異なるため、流路設計を行う際に、せん断応力差を重視するのか流速差を重視するかは、成形調整時の考えに依存する。図3 多層化の成形不良図2 積層方法もう一方の不安定現象は、図3(b)に示すように、積層後に粘度の小さい樹脂が粘度の大きい樹脂を包み込む不良であり、包み込み現象と呼ばれている。この現象は純粘性流体では生じず、樹脂が粘弾性特性を有するため発生する現象で、第2法線応力差が原因と考えられている。単純せん断流れにおいて、流動方向を「1」とし、せん断方向を「2」とし、厚み方向を「3」とすると体積を一定とするため、σ11、σ22、σ23とそれぞれの方向に応力が生じ、力のつり合いをとる。ここで、第1法線応力差はσ11-σ22、第2法線応力差はσ22-σ33で表される。また、一般的に第1法線応力はレオメーター等で測定することが可能であるが、第2法線応力については、正確に測定する方法が確立していない。それゆえ、この包み込み現象と呼ばれる不良現象の理解を困難にしている。この問題に対して、当社では、数値解析技術を用いて対策検討を試みている。解析では、式(1)~(3)で表現されるCEF(Criminale-Ericksen-Filbey)モデルを用いた。ここでτは余剰応力テンソル、ηはせん断粘度、Dは変形速度テンソル、Lは速度勾配テンソル、tは時刻、vは流速ベクトルである。Ψ1およびΨ2はそれぞれ第1法線応力N1、第2法線応力差N2によって決定する定数であり、γ̇をせん断速度とすると、式(4)、(5)で求められる。以上のCEFモデルにて、図4に示す単純矩形流路を対象に多層流動解析を実施した。解析には粘度の異なる2種類のPP樹脂(プライムポリマー製 F-300SP(MI = 3.0 g/10 min)、F-704NP(MI = 7.0 g/10 min))を使用した。解析条件は、表層にF-704NP、中間層にF-300SPを採用し、層比は表層:中間層:表層=1:2:1、樹脂の設定温度を210 ℃一定とした。図5(a)、(b)はそれぞれ、積層結果と層比となる。なお、比較として、準粘性モデルも併せて実施した結果を図5(b)に示す。図より準粘性モデルでは、中心から端部まで層比がほぼ均一であった。それに対して、CEFモデルでは,端部付近で低粘度樹脂の層が厚くなっており、包み込み現象が認められた。一般的には、粘度の異なる樹脂を積層させて矩形日本製鋼所技報No.74(2023.11)⋯(1)⋯(2)⋯(3)⋯(4)⋯(5)技術報告
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