日本製鋼所「技報74号」
66/114

射出成形機のスマート制御システムにおけるシステム状態値判定2.1 提案法の概要2.2 共通データの分離(62)間で解析し、その結果を新たな価値としてフィジカル空間の人間にフィードバックすることを目指している。このような背景から、射出成形機においても機械作業者の熟練度に依存せず、製造環境に応じて最適な成形条件を導き出す射出成形機のスマートシステム確立が急務の課題となっている。現在の射出成形機におけるスマートシステムは、管理・分析をベースとした取り組みが多く、成形条件の自動修正等、積極的な価値の提供まで組み込まれたものは実用化には至っていない。本開発では、製造環境に応じて機械が自身の状態を判断し、最適な操業条件を導出し、適応的に機械を制御するシステムをスマート制御システムと定義することとする。図1に射出成形機におけるスマート制御システムの概要を示す。射出成形機におけるスマート制御システムには多様な機能が求められる。例えば、①射出動作におけるモータのトルク制御値や回転速度の計測値等の運転データを基にした制御パラメータ調整による制御性能を改善する機能、②運転データを基に機械装置の故障・劣化状態や外部の製造環境条件を推定する機能、③出来上がった製品の画像データや機械の運転データから製品品質の良否を推定する機能、④製品品質の良否から運転方法や成形条件を提案し、調整する機能等が挙げられる。このようにスマート制御システムの機能は、機械自体が自身の状態を判断できること、状態の判断結果に応じて適切な処置を実施することの2つの要素に大別することができる。本開発では、前者の要素への対応として、射出成形機のスマート制御システムに必要なシステム状態の判定手法を開発することを目的とした。ここで扱うシステム状態とは、制御対象において入出力データに含まれない、システムの特性変化に影響する成形条件や故障状態を意味する。また、これらのシステム状態を判定するための数値をシステム状態値と定義する。例えば、射出動作のモータ制御において、トルク指令は対象システムへの制御入力であり、回転速度は対象システムの出力である。溶融樹脂の樹脂温度は溶融樹脂の流動性という射出動作の特性に影響するシステム状態値である。本開発では、対象システムの入出力等の運転データからシステム状態を判定する手法を検討し、数値解析を用いてこの判定手法の有効性を検証した。図1 射出成形機におけるスマート制御システム図2に本開発で検討した提案法におけるシステム状態値の算出フローを示す。運転データには判定に使えない共通した類似データも含まれる。データ間の相違度を上げて判定精度を向上させるため、評価データベース内の類似データを比較対象から取り除く。システム状態値別に取得した各データに対し、異なるシステム状態値におけるセットとの距離dを式(1)から算出する。各データセットここで、添え字lは各ベクトルのl番目の要素であり、はそれぞれ評価データベースの全てのデータセットのl番目要素の最大値と最小値を示す。さらに、、はそれぞれデータベースの索引を示す。また、各データセットは式(2)のように定義される。、図2 提案法におけるシステム状態値の算出フロー(1)(2)2. システム状態値の判定手法(提案法)

元のページ  ../index.html#66

このブックを見る