日本製鋼所「技報74号」
71/114

ECR-CVD技術の開発近年、Beyond 5G/6Gと呼ばれる高度なデジタル社会の実現のために、高速・大容量・低遅延・低消費電力を実現する次世代の通信技術に向けた研究・開発が世界的に活発に行われている。特にシリコンフォトニクスやLNOI(Lithium Niobate On Insulator)と呼ばれるオプトエレクトロニクス技術は、従来の光通信技術に代わる新しいキーテクノロジーとして注目されている(1)-(5)。我々はこれらのデバイスの小型化・高性能化の要求に対し、高品質薄膜形成技術として、JSWアフティが製造するECRプラズマ(6)、(7)を用いた成膜装置であるECRスパッタ装置により、これらの要求に応えてきた。ECRスパッタ装置は、無加熱で、高純度・高密度・透明・平坦な薄膜を成膜できる成膜装置であり、半導体レーザーの端面コートやSAWデバイスの保護膜など様々な電子デバイスに採用されている(8)-(10)。一方で、ECRスパッタ装置は、基板への低ダメージ性を考慮したターゲット配置による成膜速度の遅さや高い膜応力が課題となっている。例えば、数百nmを超ええるような厚膜の成膜は成膜時間の長時間化、応力による大きな反りはデバイスのプロセス工程に対して不具合を生じる。我々はECRプラズマを用いた高品質な膜形成技術の適用範囲を広げ、ECRプラズマ成膜装置のラインナップ拡充のためにJSWアフティと共同でECRプラズマをCVD法に適用したECR-CVD装置(6)の開発を行った。ECR-CVD装置は、スパッタでは困難である高速成膜や膜応力制御を可能とする成膜装置であり、ECRスパッタ装置の課題を克服したものとなっている。本報告では、JSWとJSWアフティが共同で開発したECR-CVD装置の成膜特性について述べる。ECRプラズマはマイクロ波による電界とコイルによる外部磁界による共鳴を用いたプラズマ生成技術である。プラズマチャンバ中に存在する電子はコイルによって生成された磁力線の周りを回転する。この回転周波数と同じ周波数のマイクロ波を導入すると共鳴現象が生じ、電子は高速に回転する。この高速で回転する電子が真空中のガス分子と級数的に衝突を繰り返すことで高密度プラズマを生成する。プラズマ源で発生したECRプラズマは、コイルが作る発散磁界により成膜室側へ引き出される。この発散磁界と試料表面にできるシース電位により、イオンは10 eV~30 eVのエネルギーを与えられて試料に照射される(6)、(11)。このエネルギーは分子の化学結合エネルギーより十分高く、半導体素子にダメージを与えるほど高くはない最適なエネルギー範囲である。このエネルギーによるアシストによって、ECR成膜装置では、無加熱で低ダメージ・高品質な膜形成が可能となる。図1に開発中の試作機であるECR-CVD装置のチャンバー模式図を示す。試料は6 inch基板が処理可能であり、成膜はフェイスダウンで行われる。チャンバー内試料上部にはヒータを備え、試料を加熱して成膜することも可能である。チャンバー下部にはECRプラズマ源を備えている。プラズマ源と試料は、対向する位置ではなく、傾斜した位置に備えられており、成膜時は基板を回転させながら成膜することで、膜の均一性を高めている。開発中のECR-CVD装置の基本特性として、SiO₂膜およびSiN膜の成膜特性を調査した。SiO₂の成膜は、SiH₄とO₂ガス、SiN膜の成膜はSiH₄とN₂ガスを導入して行っている。図2にSiO₂膜とSiN膜のSiH₄流量を変えたときの成膜速度を示す。SiO₂膜の屈折率は1.48 (λ= 632.8 nm)程度、図1 ECR-CVD装置のチャンバー模式図図2 SiO₂膜およびSiN膜の成膜速度(67)1. 緒  言2. ECRプラズマの特徴3. 装置構成および基本成膜特性技術報告

元のページ  ../index.html#71

このブックを見る