ECR-CVD技術の開発(68)SiN 膜の屈折率は1.92(λ= 632.8 nm)程度になるように、SiH₄ の流量に対してそれぞれ O₂ および N₂ の流量を変えてSiO₂ 膜またはSiN 膜を成膜している。これらの膜はRBS (Rutherford Backscattering Spectorometry)により、SiO₂ 膜ではSi : O = 1 : 2、SiN 膜ではSi : N = 3 : 4に近い組成であることを確認している。図2に示すように、ECR-CVD装置では原料であるSiH₄ の流量を変えることで、成膜速度の高速化が可能である。SiN 膜では、SiH₄ 流量30 sccm時で約110 nm/min、SiO₂ 膜ではSiH₄ 流量40 sccm時で約200 nm/minまで高速化が可能であることが確認できた。一方で本検討に使用したECR-CVD装置と同様の構造をとっている、6 inch以上の基板サイズに対応する傾斜回転型ECRスパッタ装置では、成膜速度はSiO₂ 膜で7 nm/min、 SiN 膜で2 nm/min程度であることから、成膜速度の点では10 倍以上の高速成膜が可能である。図3は、ECR-CVD装置の他に比較として、ECRスパッタ装置、プラズマCVD (Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition: PECVD)装置で成膜したSiN膜の光学特性である(a)屈折率と(b)消衰係数を示したものである。PECVD装置のSiN膜はSiH₄, NH₃, N₂を使用し、基板温度300 ℃で成膜しており、ECR-CVD装置とECRスパッタ装置は無加熱で成膜した結果である。図3(a)に示すように、ECR-CVD装置のSiN膜は、屈折率は波長632.8 nmにおいて1.92程度であり、他の2.0を超える屈折率と比較すると若干低い傾向となっている。しか図3 ECR-CVD装置、ECRスパッタ装置、PECVD装置で成膜したSiN膜の(a)屈折率と(b)消衰係数し図3(b)に示すように消衰係数の点では、吸収の立ち上がりが290 nmであり、ECRスパッタ装置の310 nm、PECVD装置の470 nmと比較すると、より低波長側まで吸収が見られず、吸収の少ない膜が形成できている。表1に、ECR-CVD装置、ECRスパッタ装置、PECVD装置で成膜したSiN膜のAFMで測定した表面ラフネス像とそれぞれの表面全面の表面粗さSaを示す。表1に示すように、表面ラフネスについては、ECR-CVD装置のSiN膜のSaは0.4 nmであり、ECRスパッタ装置のSa 0.1 nmほどの平坦性はないが、PECVD装置のSa 1.3 nmよりは平坦性のよい膜が得られている。膜の平坦性に関して、ECRプラズマは他のプラズマと比較していくつか利点が挙げられる。ECRプラズマのプロセス圧力は10-2 Pa~10-1 Pa程度であり、他のプラズマプロセスよりも低圧のプロセスとなるため、処理中に非プラズマであるガス成分の混入リスクが低い。またプラズマ密度が高く(1011 cm-3~1013 cm-3)、10 eV~30 eV程度の低エネルギーの組み合わせにより、イオン衝撃によるダメージも少なく、平坦な膜形成が可能である(12)。表1の結果からも、ECR-CVD装置は、平坦性の高い膜が形成できており、ECRプラズマ成膜の特性が生かされているといえる。膜の平坦性は、デバイスにおいては電界集中や電気特性にも影響を与えるため(13) 、(14)、平坦な膜を形成できることは1つの長所となる。図4には、0.5 %フッ酸溶液に浸して測定したSiN膜のエッチングレートを示している。ECRスパッタ装置のSiN膜は最もフッ酸溶液耐性が高く、エッチングレートは0.5 nm/minであった。ECR-CVD装置のSiN膜は、ECRスパッタほどの耐性はないが、エッチングレートは3.7 nm/minであり、PECVD装置のSiN膜のエッチングレート14.8 nm/minと比較すると、4倍程度の耐性表1 ECR-CVD装置、ECRスパッタ装置、PECVD装置で成膜したSiN膜の表面粗さSa値日本製鋼所技報No.74(2023.11)(a)(b)技術報告
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