ECR-CVD技術の開発4.1 面内均一性の改善を確認できた。これらのことから、ECR-CVD装置の膜は、ECRスパッタ装置ほどの高品質な膜質は得られないが、10倍以上の高速成膜が可能であり、さらに無加熱で従来成膜法のPECVD装置の膜より優れた膜を成膜できることが確認できた。図5には、3つのSiH₄流量条件で、それぞれN₂流量を変えたときのSiN膜の膜応力を示している。SiH₄の流量は① < ② < ③である。膜応力の測定は、6 inch Si基板上に150 nmのSiN膜を成膜し、東朋テクノロジー社製FLX-2320-Sにて光てこ法により行った。図5に示すように、SiN膜はガス流量条件を変えることで、膜応力の制御が可能であることが確認できた。膜応力はすべて圧縮応力であった。SiH₄低流量である条件①のSiN膜の膜応力は、最も応力が高い条件では-2 GPa程度であり、これはECRスパッタ装置のSiN膜と同等の膜応力である。一方でSiH₄流量を増加させると共に、膜応力の絶対値としては低下する傾向が見られ、条件③では-50 MPa程度まで応力が下がることを確認した。一方でSiO₂膜については、SiN膜ほどの応力制御はできず、成膜条件を変えても膜応力は-300 MPa~-400 MPa程度であり、ガス流量条件による膜応力の制御は困難であることがわかった。図4 ECR-CVD、ECRスパッタ、PECVD装置で成膜したSiN膜のフッ酸0.5 %溶液でのエッチング速度図5 SiH₄とN₂流量を変えたときのSiN膜の膜応力ECR-CVD装置は、プラズマ源を基板に対して傾斜させ、成膜中は回転させることで面内均一性を高めているが、膜厚分布は6 inch基板面内で±5 %程度であった。ECRスパッタ装置は8 inch基板で±1 %程度の膜厚分布を達成しており、ECR-CVD装置は膜厚分布の向上が課題となっていた。従来のPECVD装置では、ガスシャワーヘッドによるガス供給方法により面内均一性の制御を図っている(15)。PECVD装置はプロセス圧力が100 Pa程度であるため、気体の平均自由行程は0.07 mmと非常に短い。そのためガスの噴き出し方法によって、分布の改善を行うことが一般的である。一方でECRのプロセスは、プロセス圧力が10-2 Pa~10-1 Pa程度の低圧のプロセスであるため、平均自由行程は70 cm (10-2 Pa)~7 cm (10-1 Pa)と非常に長い。そのため、ECR-CVD装置のプロセスでは、ガス供給方法を制御してもガスは拡散してしまい、分布を制御することは困難である。そのため、膜の均一性を上げるために、基板とプラズマ源の位置や角度の調整を行った。図6は、プラズマ源と基板の角度を、標準状態(角度2)から鋭角方向(角度1)と鈍角方向(角度3)に変えたときの模式図を示している。基板の中心はプラズマ源の中心線と交わるように調整し、プラズマ源の角度を回転させている。図7は図6のプラズマ源と基板の状態で、それぞれ同一条件で成膜したSiO₂膜の8 inch Si基板面内の成膜速度分布を示している。表2にプラズマ源と基板の角度を変えたときの中心部の成膜速度と6 inch (± 75 mm)領域の膜厚分布を示す。図7と表2に示すように、プラズマ源と基板の角度を鋭角方向(角度1)に傾けると、中心部の成膜速度が約10 %向上するが、膜厚分布は中央の膜厚のみが膨らみ、±7.1 %へと悪化する結果となった。一方で鈍角方向(角度3)に傾けると、成膜速度は約20 %低下するが、中央の山なりの分布が平らになり、膜厚分布は±2.0 %に向上することが確認できた。図6 プラズマ源角度に対する基板角度を鋭角、鈍角に変えたときの模式図(69)4. ECR-CVD装置製品化に向けた取り組み技術報告
元のページ ../index.html#73