日本製鋼所「技報74号」
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ECR-CVD技術の開発4.2 厚膜化への対応(70)さらに膜厚分布を改善するために、角度3にて基板位置のシフトを行った。図8は角度3にて基板位置をシフトさせたときの模式図を示している。図8に示すように、基板はプラズマ源から離れていく方向に12.5 mm、25 mmシフトさせた。図9は、角度3で基板位置のシフト量を0 mm、12.5 mm、25 mmと変化させたときの成膜速度分布を示している。図9と表3に示すように、基板シフト量の増加により、さらに膜厚分布は±1 %以下まで改善が見られた一方で、成膜速度の低下が見られた。これらの結果から、膜厚分布と成膜速度のバランスを考慮し、検証機ではプラズマ源角度を角度3、シフト量12.5 mmを標準仕様とした。図7 プラズマ源角度を変えたときの膜厚分布 表2 プラズマ源角度を変えたときの中心部成膜速度と膜厚分布図8 角度3にて基板をシフトさせたときの模式図ECRスパッタ装置は高品質な膜が成膜できるが、成膜速度が遅く、膜応力も非常に高いため、数百nmを超える膜厚の要求に応えることは困難である。これまでに紹介したように、ECR-CVD装置では、高速成膜と膜応力の制御が可能であることからµmオーダーの厚膜成膜への適用を検討した。近年は、数µm厚のSiO₂膜でクラッド層の形成や、光通信デバイスの光変調器向けにSi、水晶、LN、LT(Lithium Tantalate: LT)等の基板上に数µmのSiO₂膜を光緩衝層として使用した接合基板が提案されている(16) - (18)。厚膜のSiO₂膜といえば、Si基板上の熱酸化膜がその良好な膜質や界面状態からよく使われているが、厚くなるほど成長速度が遅くなるため2 µmを超えるような膜厚は難しく、結晶欠陥の一種であるスリップラインの発生の問題もある(19)、(20)。図10は、ECR-CVD装置にてSiO₂膜を5 µm成膜したSi基板の断面SEM像を示している。図10に示すように、5 µmのSiO₂膜は膜剥がれやスリップライン等の異常は見られず、µmオーダーの膜が成膜できていることが確認できた。ECR-CVD装置を用いたµmオーダーの膜の評価として、4 inch LN基板上に5 µm厚のSiO₂膜を成膜し、さらにSiO₂膜上にLN基板を接合させた接合基板のサンプル作成を行った。表3 基板シフト量を変えたときの中心部成膜速度と膜厚分布図9 基板シフト量を変えたときの膜厚分布日本製鋼所技報No.74(2023.11)技術報告

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