エチレンの異常分解反応(デコンポ)発生時の温度履歴を模擬付与したLDPEリアクター材の寿命評価3.1 デコンポによる金属組織の変化表1に示す化学組成のASME SA-723M Gr. 3, Cl. 2鋼相当材を1200 ℃で前歴消去熱処理を施した後、図1に示す実機と同等条件で調質熱処理を施した。以降、このデコンポを経験していない状態の材料をデコンポ未経験材と称す。なお、供試材のMo含有量がSA-723M Gr. 3, Cl. 2鋼の下限値を若干逸脱しているが、材料特性への影響は極めて小さいと判断した。また、図中の熱処理記号N、TおよびQは、それぞれ焼きならし(Normalizing)、焼戻し(Tempering)および焼入れ(Quenching)を意味する。次に、熱処理炉にてデコンポ未経験材に図2に示すデコンポを模擬した温度履歴を与えた(以下、デコンポ模擬試験と記述)。デコンポ発生時にリアクター材料が受ける温度履歴(最高到達温度やその温度に曝される時間)は、エチレンの分解反応の規模等により変化するが、本報では代表条件として最高加熱温度Tを以下の4温度(690 ℃, 745 ℃, 850 ℃および1200 ℃)に設定した。また、保持時間は、デコンポが極めて短時間で終息すること、一方で均熱保持時間が短すぎると均熱不良で材料特性評価結果にばらつきが生じることを考慮して10 minとした。また、デコンポ模擬熱処理時の加熱速度および冷却速度は30 ℃/minとした。なお、デコンポ終息後のリアクター再運転を想定して、焼戻し条件はTによらずいずD1材:T = 690℃(Ac1点直下の温度)D2材:T = 745℃(Ac1点とAc3点の中間)D3材:T = 850℃(焼入れ温度)D4材:T = 1200℃(超高温域)表1 供試材の化学組成(mass%)図1 LDPEリアクター材を再現した熱処理条件(デコンポ未経験材)図2 デコンポ模擬熱処理条件れも300 ℃×10 hとした。以下、各デコンポ模擬材をD1材、D2材、D3材およびD4材とそれぞれ記述する。デコンポ未経験材およびデコンポ模擬材について、ミクロ組織および結晶粒度測定、引張試験(室温、300 ℃)およびシャルピー衝撃試験を実施した。図3にデコンポ未経験材およびデコンポ模擬材(300 ℃焼戻し後)のミクロ組織および結晶粒観察結果を示す。なお、結晶粒観察像の右下に結晶粒度(G. S. No.)を併記している。デコンポ未経験材は焼戻しマルテンサイトおよび焼戻しベイナイトの混合組織を呈し、そのG. S. No.は5.8であった。D1材はAc1点以下の加熱であり、実質的には焼戻しが追加されただけなので、デコンポ未経験材の金属組織と結晶粒度とほぼ同じであった。D2材はAcl点とAc3点の中間温度に加熱しているため、逆変態している部分とD1より高温で焼戻されている部分が存在するはずである。光学顕微鏡ではD1材との明瞭な違いを見つけるのは難しいが、D2材の結晶粒観察像では旧γ粒界にデコンポ模擬加熱中に逆変態再結晶した微細粒が明瞭に観察され、D1材との違いが認められた。D3材はデコンポ模擬加熱中に逆変態再結晶が全面的に生じ、G. S. No. 9程度の整細粒となり、金属組織の下図3 デコンポ未経験材とデコンポ模擬D1, D2, D3およびD4材のミクロ組織および結晶粒日本製鋼所技報No.74(2023.11)技術報告2. 実験方法(80)3. 実験結果
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