3.2 デコンポによる引張および衝撃特性の変化エチレンの異常分解反応(デコンポ)発生時の温度履歴を模擬付与したLDPEリアクター材の寿命評価部組織がデコンポ未経験材、D1材およびD2材と比べて微細であった。D4材はG. S. No. -0.6まで粒成長し、それに伴い下部組織も粗大であった。表2および表3に室温引張特性およびシャルピー衝撃特性、試験温度300 ℃の引張特性をそれぞれ示す。デコンポ未経験材の強度と靭性は材料仕様を十分満足していることから、デコンポ未経験材はおおむね実機材を再現できていた。D1材はデコンポ模擬加熱温度が最も低いが、デコンポ未経験材より強度が70 MPa程度低かった。690 ℃×10 minという条件は、加熱および冷却過程を含めると調質時の焼戻し温度590 ℃換算でおよそ10 h保持に相当する。これは、デコンポ未経験材の約2倍の焼戻し効果が付与されたことになるため、顕著な強度低下が生じたと考えられる。しかし、裕度はほとんどないが材料仕様の強度を満足し、強度が低下したため靭性の向上が認められた。Acl点とAc3点の中間温度に加熱したD2材は、D1材より低強度であり、特に0.2 % Y. S.は150 MPa低かった。これは、D2材の旧γ粒界に生じた微細な逆変態再結晶粒以外の大半の部位がD1よりも高温で焼戻されていることが主因と考えられる。一方、強度低下しているにもかかわらず、靭性低下も認められ、Acl点とAc3点の中間の二相域に加熱したことによる金属組織の不均一化が原因と考えられる。D3材は再焼入れされる条件にあたるが、焼入れ後300 ℃という低温で焼戻されているため、デコンポ未経験材より高強度であったが、材料製造仕様での伸びを満足していない。D3材のY.R.は0.83であり、デコンポ未経験材より0.07低いことから、D3材は保持時間が10 minと短いため材料全体が逆変態再結晶して均質なγ相になる前に冷却された状態にあると推測される。靭性はおおむねデコンポ未経験材と同等であった。D4材は、D3材と同様に強度が上昇したが、結晶粒が粗大化したため、D3材より0.2 % Y. S.が低く、靭性も顕著に低下した。表2 デコンポ未経験材とデコンポ模擬D1, D2, D3およびD4材の室温引張特性およびシャルピー衝撃特性高温引張特性(300 ℃)の要求Spec.はないので、デコンポ未経験材からの変化で説明する。D1材は室温引張特性と同様に、追加で焼戻されたことによる強度低下が認められた。D2材は、デコンポ未経験材と同等のT.S.を示したが、0.2 % Y. S.が170 MPa程度低かった。D3材はデコンポ未経験材より高強度であるが、同等の伸びおよび絞りを示した。D4材はD3材とほぼ同等の強度を有するが低延性であり、特に絞りは著しく低かった。以上、本研究で想定したデコンポ条件でデコンポ未経験材から材料特性の多様な変化が認められた。その変化は、高強度化や低強度化といった単純なものではなく、特に再焼入れが伴う温度域に加熱される条件では複雑な変化を伴った。デコンポ未経験材とデコンポ模擬材の0.2 % Y. S.(σys)、上部棚のシャルピー衝撃吸収エネルギー値(CVN_us)および破面遷移温度(FATT)を用いることで破壊靭性値(KIC)の遷移曲線の変化を予測し(1)、デコンポによる材料劣化程度の定量評価を試みた。各デコンポ模擬試験前後におけるシャルピー衝撃特性とマスターカーブ法(1)によるKICの遷移曲線を比較した結果を表4に示す。圧力容器のスタートアップ/シャットダウンでの脆性破壊を防止するための基準(2)であるKICが上部棚となる温度T_usや、疲労亀裂進展寿命(3)の解析に用いるLDPEリアクターの運転温度300 ℃での破壊靭性値(KIC_300℃)は、デコンポ模擬条件によって変化しており、最高到達温度を1200 ℃と想定したD4では、著しい低下が認められた。一方で、D1~D3では大きな低下は認められなかった。表3 デコンポ未経験材とデコンポ模擬D1, D2, D3およびD4材の高温引張特性(300 ℃)(81)4. デコンポによる破壊靭性の変化と応力分布の再配分技術報告
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