日本製鋼所「技報74号」
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エチレンの異常分解反応(デコンポ)発生時の温度履歴を模擬付与したLDPEリアクター材の寿命評価(82)次に、LDPEリアクターデコンポ温度履歴後の定常運転(運転圧力:241 MPa, 運転温度:300 ℃)における応力分布を予測する。リアクターボディー素材が図2に示すデコンポ模擬の温度履歴を受けたと仮定し、図4のデコンポ未経験材とデコンポ模擬材の真応力-真ひずみ線図をそれぞれ適用して応力解析を実施した。その一例として、デコンポ未経験材によるLDPEリアクター定常運転中のMises応力分布を図5に示す。これらの応力解析結果から応力の再配分を評価するため、ジャケット取り付け溶接部(バタリング)下から開始する疲労亀裂とクロスボアクラッキング(3)を想定した亀裂進展方向に対する開口応力分布を各デコンポ温度履歴前後で比較した結果を図6および図7にそれぞれ示す。デコンポ後の定常運転において、図6のジャケット取り付け溶接部(バタリング)下のボディー外表面から内表面の肉厚方向にわたる応力分布では、再配分がほとんど発生していないのが確認できる。一方、図7のクロスボア内面コーナー部での応力分布では応力の再配分が生じており、デコンポにより引張強度が上昇しているD3およびD4の場合では応力集中部における応力の上昇が認められる。クロスボア内面コーナー部ではデコンポ未経験材の定常運転で塑性ひずみが生じており、デコンポ後の定常運転でD3およびD4の場合には引張強度の上昇に追従して塑性ひずみの分布状態が変化していることに起因する。したがって、リアクター内面側で塑性ひずみが生じている部位では、デコンポ経験後の定常運転条件が同じであっても、デコンポの温度履歴により、その後の定常運転での応力分布状態に変化が生じていることになる。そのため、通常運転での応力集中部やプロセスライセンサーによる水圧試験圧力の指定に従って自緊設計が施されている部材が、デコンポによる異常昇温に曝された場合の継続運転可否判定や余寿命評価に向けた応力解析では、デコンポの温度履歴に依存した応力の再配分の評価が重要となる。表4 各デコンポ模擬試験前後におけるシャルピー衝撃特性と破壊靭性値KICの比較図4 デコンポ未経験材とデコンポ模擬D1, D2, D3およびD4材の真応力-真ひずみ線図(上図:室温, 下図:300 ℃)図5 デコンポ未経験材によるLDPEリアクター定常運転中(運転圧力241 MPa, 運転温度300 ℃)のMises応力分布日本製鋼所技報No.74(2023.11)技術報告

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