エチレンの異常分解反応(デコンポ)発生時の温度履歴を模擬付与したLDPEリアクター材の寿命評価図6 デコンポ未経験材とデコンポ模擬材のジャケット取り付け溶接部(バタリング)下から開始する想定疲労亀裂進展の方向に対する亀裂開口応力分布の比較図7 デコンポ未経験材とデコンポ模擬材の想定クロスボアクラッキングの進展方向に対する亀裂開口応力分布の比較デコンポ経験後の靭性変化と応力分布の再配分がLDPEリアクターの疲労亀裂進展寿命に与える影響を評価する。そこで、各デコンポ温度履歴前後の破壊靭性値の変化と応力分布の再配分として、表4の破壊靭性値と図7のクロスボアクラッキングの亀裂進展経路を想定した応力分布を、初期想定亀裂深さ(a0)を1 mmとした疲労亀裂進展解析へそれぞれ適用し、デコンポ温度履歴によるクロスボアクラッキングの疲労亀裂進展寿命(3)を比較する。100サイクルごとのリアクター定常運転における疲労亀裂進展に対して、応力拡大係数(KI)とKICの比である靭性比(Kr)と、一次応力の参照応力(σPref)とσysの比である荷重比(LPr)を評価点の座標として破壊評価線図(FAD : Failure Assessment Diagram)にプロット(2)した軌跡とその亀裂進展曲線を各デコンポ温度履歴により比較した結果を図8と図9にそれぞれ示し、これらの数値データを表5に要約する。なお、図8と図9にはデコンポ未経験材の評価結果も併記している。この亀裂進展解析では、破壊評価曲線(FAC : Failure Assessment Curve)へ到達したプロットでの亀裂深さ(a)および繰返し回数(N)をそれぞれ限界亀裂深さ(ac)および理論疲労寿命(Nc)として定義する。クロスボアクラッキングの疲労亀裂進展において、デコンポの温度履歴に依存した応力の再配分の影響は、初期応力拡大係数KIとそれを関数とする初期疲労亀裂進展速度da/dN(3)の違いとして現れた。デコンポ未経験材と比較して引張強度が上昇したD3およびD4では、KI値は40 MPa・m0.5に対してそれぞれ43 MPa・m0.5および44 MPa・m0.5と上昇し、da/dN値は2.08×10-4 mm/cycleに対してそれぞれ2.58×10-4 mm/cycleおよび2.60×10-4 mm/cycleと上昇したため、クロスボアクラッキングの耐進展性が低くなっている。さらに、これらの耐疲労亀裂進展性の低下はNcに影響を与え、デコンポ最高到達温度が超高温域であるD4では、デコンポ未経験材の12900 cyclesに対して3600 cyclesと著しく低下した。また、デコンポの温度履歴に依存したKIC_300℃値の減少は、デコンポ未経験材の163 MPa・m0.5に対してD2では149 MPa・m0.5およびD4では73 MPa・m0.5と予測でき(1)、これらの影響はacの減少として現れ、デコンポ未経験材の20 mmに対してD2およびD4では16 mmおよび3 mmにそれぞれ減少した。このことはデコンポを経験したLDPEリアクターの余寿命に相当する疲労亀裂進展期間を規定するためには、シャットダウン検査によるクロスボアクラッキングの早期検出と高精度な(83)5. デコンポによる疲労亀裂進展寿命の変化技術報告
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