日本製鋼所「技報74号」
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エチレンの異常分解反応(デコンポ)発生時の温度履歴を模擬付与したLDPEリアクター材の寿命評価(84)サイジングが重要となることを意味する。一方、デコンポの温度履歴を付与しても材料仕様を満足したD1では疲労亀裂進展寿命に関しても悪影響を与えていない。図8 各デコンポ温度履歴による想定クロスボアクラッキングに対する破壊評価線図(FAD)評価点の軌跡と限界点の比較図9 各デコンポ温度履歴による想定クロスボアクラッキングに対する亀裂進展曲線と理論疲労寿命の比較表5 各デコンポの温度履歴による想定クロスボアクラッキングに対する疲労亀裂進展解析結果の要約の比較LDPEリアクター内で起こるエチレンの急激な分解反応(デコンポ)の際にリアクター素材が経験する温度履歴を模擬付与して得られた引張特性、シャルピー衝撃特性等から疲労亀裂進展寿命の定量的評価を試みた。LDPEリアクター耐圧部材の材料であるSA-723M, Gr. 3, Cl. 1もしくはCl. 2相当の4Ni-1½Cr-½Mo-V鋼は、デコンポで1200 ℃の加熱を経験すると、結晶粒の粗大化と再焼入れされフルマルテンサイトとなり、引張強度の上昇に伴い靭性が著しく低下した。そのため、これに類似する温度履歴を経験したデコンポ経験後の再運転においては、疲労亀裂進展寿命が著しく低下している可能性が高い。一方、デコンポの最高到達温度により逆変態再結晶したものの均質なγ相になる前に冷却された状態では、塑性ひずみの分布状態の変化に起因する疲労亀裂の耐進展性がデコンポ経験後の再運転で低くなると考えられる。また、微細な逆変態再結晶粒が旧γ粒界にだけ生じ金属組織が不均一となっている状態では、疲労亀裂の限界亀裂深さが小さくなる可能性がある。このようにデコンポを経験したLDPEリアクターにおける疲労亀裂進展挙動は、その材料が経験した温度履歴により変化した引張特性、シャルピー衝撃特性等に大きく影響する。したがって、LDPEリアクターがデコンポを経験した場合には、材料製造時の熱処理データとデコンポの温度履歴を可能な限り模擬して引張特性、シャルピー衝撃特性等の変化程度を予測し、さらに、シャットダウン検査における亀裂状欠陥の早期検出と高精度なサイジングによる余寿命評価の妥当性検証が重要である。(1) T. Iwadate, Y. Tanaka, and H. Takemata: “Prediction of Fracture Toughness KIC Transition Curves of Pressure Vessel Steels from Charpy V-notch Impact Test Results”, PVP-Vol. 239/MPC Vol. 33, Serviceability of Petroleum, Process, and Power Equipment ASME 1992 (1992), pp.95-101(2) “API579-1/ASME FFS-1, June, 2016”, The American Society of Mechanical Engineers / American Petroleum Institute (2016)(3) “ASME BPVC Section VIII, Division 3, 2021 Edition”, The American Society of Mechanical Engineers (2021) 日本製鋼所技報No.74(2023.11)技術報告6. 結  言参 考 文 献

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