技術論文3. 実験結果および考察高温高圧水素に対する圧力容器の供用適性評価技術3.1 スタートアップ時の水素助長割れ試験結果(6),(7)3)シャットダウンと同等の条件下での水素助長割れ試験方法57 hのシャットダウン期間ではリアクターへの水素ガスの供給が停止するが、シミュレーションでは運転温度425 °Cからの降温に伴い壁中に高含有量の拡散性水素が内在している状態で応力が上昇し、運転サイクルにおいて最大値の194 MPaを示した。この応力上昇は内面ステンレスオーバーレイ(Weld Overlay : WOL)とその外側の耐圧部材であるF22V鋼の熱膨張率の差異や降温速度に関連する内外面側の温度差によりWOL直下のF22V鋼に顕在化する熱応力に起因するものである。そこで、このようにリアクター壁中に高含有量の拡散性水素が残留した状態での応力上昇を再現するため、事前に水素チャージした1T-C(T)試験片を用いて、試験温度を150 °Cと室温として大気中で漸増荷重を与えた(内在水素助長割れ(Internal Hydrogen Assisted Cracking : IHAC)試験)。その際、リアクター降温に伴う壁中の原子状水素の拡散が温度により水素助長割れ進展開始に作用するか否かを検討するため、150 °Cと室温での内在水素助長割れ試験で得られる荷重-変位曲線が、150 °Cと室温での標準試験で得られる荷重-変位曲線から逸脱を開始する点(デビエーションポイント)(8)が現れるか否かをそれぞれ評価した。なお、水素助長割れ進展開始の下限界応力拡大係数KIHは、これらのデビエーションポイントでの荷重を用いて算出したASTM E 1820によるK値である。一方、水素チャージ後に150 °Cの大気中に放置し、分析試料採取位置をテストクーポンの表面と中心部として残留水素含有量を調査した結果を図5に示す。5 h程度であれば、150 °Cの試験中に試験片から水素が散逸することを考慮しても、リアクター壁中に内在する拡散性水素の最大値5.20 mass ppmを上回る水素が試験片に残留することが予測される。(21)2.3 試験片へのリアクター壁中の拡散性水素の模擬付与(7)リアクター壁中と同等の拡散性水素含有量を試験片にチャージさせるため、試験片をオートクレーブでリアクターの定常運転と同等の高温高圧水素へ暴露した直後に水冷する(10)。試験片に水素添加するための水素チャージ圧力と時間を25 MPaと48 hに設定し温度をそれぞれ375 °C、450 °C、500 °Cに場合分けすることで、水素チャージ後に常温大気中に放置した時間と1T-C(T)試験片に残留した水素含有量の関係を求めた結果を図4に示す。水素チャージ温度450 °Cの場合に水素の散逸が最も低いこと、また、常温大気中に9 h放置してもリアクター壁中で内在する拡散性水素の最大値5.20 mass ppmを十分に上回ることから、この条件を1T-C(T)試験片への水素チャージ条件とした。図4 水素暴露試験後に常温大気中に放置した時間と1T-C(T)試験片の残留水素含有量の関係(7)図5 水素暴露試験後150 °C大気中放置時間と分析試料採取位置による残留水素含有量の関係(7)事前の1T-C(T)試験片への水素チャージ有り無しにより、水素環境助長割れ試験結果を比較した。図6に、事前に水素チャージした場合としていない場合の低靭性材試験片の室温、20 MPa水素中での荷重-クロスヘッド変位曲線と、同一荷重での標準試験片の荷重線変位との差をあわせて示した。また、本結果より評価された水素環境助長割れ進展開始限界荷重とKIHを同図に示した。図7には低靭性材の試験後のSEM破面観察結果を示すが、試験片への事前の水素チャージ有り無しにかかわらずいずれも荷重漸増時に破壊に至っており、ほぼ完全に擬劈開破面を呈していた。また、荷重-クロスヘッド変位曲線からは5%非線形が生じる前に急速破壊に至ったと判定され、その荷重から算出したKIH値を水素脆化が作用した場合の破壊靭性値としてKIC-Hと定義し図6に示した。その結果、事前に水素チャージしていない試験片で得られたKIHとKIC-H の値は、事前に水素チャージした試験片で得られた値を下回ることを確認した。一方、高靭性材の場合では、試験片への事前の水素チャージ有り無しにかかわらず荷重漸増時に破壊に至らず、試験後に強制破断した破面をSEM観察した結果で日本製鋼所技報 No.75(2024.11)
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