技術報告1. 緒 言(45)2. 食品用二軸押出機の歴史食品用二軸押出機による大豆ミート製造プロセスと予測シミュレーション近年、動物性タンパク質に代わり、大豆やエンドウ豆といった豆類および小麦タンパク質を原料とした、植物系タンパク質の需要が高まっている。この背景には、いくつかの要因が挙げられる。まず1つ目の要因が「プロテインクライシス(タンパク質の供給量不足)」である。世界人口は右肩上がりに増加を続けており、2050年には約90億人以上に達すると予測されている(1)。このような世界的人口増加のほかに、新興国の経済発展による食生活の質向上や食の欧米化によって、タンパク質の需要が高まっているため、近い将来、需給バランスが崩れ、「プロテインクライシス」に陥るとみられており、その解消策として、植物系タンパク質に注目が集まっている。2つ目の要因が「生産性向上による環境破壊」である。畜産では大量の飼料と水、広大な耕作地や牧草地が必要であり、前述の食肉需要の増加を賄うために森林が牧草地に変えられ、環境破壊が起きている。また、日本の農畜分野における二酸化炭素排出量の28 %は家畜由来であり、その中でも牛のげっぷに含まれるメタンガスは二酸化炭素の25倍の温室効果を持つため、地球温暖化の一因と考えられている(2)。3つ目の要因が「世界的な代替タンパク質ニーズの高まり」である。ベジタリアンやヴィーガンといった菜食主義者の人口割合が、特に欧米において増加傾向にある(3)。そのほかに食品の流通・加工等の技術発展、ライフスタイルの変化による食生活の多様化、健康的な食品への高い関心が食肉に代わる新たな食材を必要としており、今までなかった新たなタンパク質源の生産が望まれている。冒頭に述べた通り、動物性タンパク質の代替品には、豆類や小麦などがある。その中でも大豆を用いた植物由来の代替タンパク質の製造開発の場合、既存の栽培技術の活用により低コストで原料の生産規模を拡大できるうえ、代替タンパク質の製造時に既存の食品加工プロセス技術が応用可能である。また、原料となる大豆は比較的安価であり、食用油の原料として多く輸入されている。そこで、食品メーカや製粉メーカ、化学メーカが肉様素材の製造および研究を盛んに行っている。本報告では、食品用二軸押出機を用いた大豆ミート製造プロセスにおける、押出機シリンダ温度の違いが大豆ミートの外観や組織化に及ぼす影響および押出機シリンダ内部の原料温度や圧力の予測を行うシミュレーションについて報告する。スクリュ機構をもつ食品加工装置はぶどう絞り機や搾油機などに古くから用いられてきた。その中で食品加工における押出機の歴史をひもとくと、食品加工用押出機の原型が作られたのは1930年代後半である。この時代の押出機は一軸型が中心であり、パスタ類の製造へ用いられたのちにシリアルやスナックへと利用範囲が拡大し、1970年代からは植物性タンパク質を繊維状に加工した植物性組織化タンパク質(Texturized Vegetable Protein: TVP)の製造へ利用されるようになった(4)。時期を同じくして、1970年代からプラスチック加工用として利用されていた二軸押出機が改良され、食品分野においても利用されるようになった。食品用に改良された二軸型は一軸型では制御できない高水分や高油分の原料を容易に扱えるだけでなく、混練性能も高いため、二軸型による食品開発が進められた(5)。さらに、二軸押出機は混練、加熱、成形あるいは膨化といった多くの機能を一台で賄えるため、これまで複数工程を経て製造していた食品を一台の二軸押出機で製造可能であり、連続処理性が高く生産効率の向上も果たせるため、多くの食品分野へ導入された。そして、植物性組織化タンパク質の製造も、一軸型から二軸型を用いた製造が主流となっていく。初期段階の1970年代ごろに製造されていた植物性組織化タンパク質の主な役割は、食品の保水性や食感の向上に用いられる品質向上剤であった(6)。昨今では、代替肉需要の高まりに応えるため、本物の肉に近い食感や味わいを再現する技術が注目されているので、優れた混練性能を持ち、高温高圧下においてタンパク質の膨化や組織化の可能な二軸押出機が、植物性組織化タンパク質の製造に広く用いられている。日本製鋼所技報 No.75(2024.11)
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