日本製鋼所「技報75号」
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技術報告4. 大豆タンパクの組織化(47)食品用二軸押出機による大豆ミート製造プロセスと予測シミュレーション食肉は皮下脂肪と筋間脂肪組織、骨格筋によって構成されている。中でも骨格筋は円筒状の巨大多核細胞である筋線維の束によって構成されている。大豆ミートが肉様食品として位置付けられるのは、原料に含まれる大豆タンパクの組織化によって、食肉の繊維構造を再現できるからにほかならない。そこで、二軸押出機のプロセス因子が大豆タンパクの組織化に及ぼす影響を調べるため、小型機(TEX30)を用いて大豆ミートの製造テストを行った。原料には脱脂大豆(昭和産業株式会社製)を用いた。各種条件のうち脱脂大豆:水 = 6:4およびスクリュ回転数200 rpmを固定し、混練部のシリンダ温度を120 ℃から5 ℃ずつ上げて、サンプル採取した。図4に各シリンダ温度で得られた大豆ミートの外観を示す。シリンダ温度が高いほど、大豆ミート表面の繊維の粗さが抑えられ、滑らかになっていく傾向が確認された。具体的には、混練部シリンダ温度が120 ℃の場合、大豆ミート表面はぼそぼそしており、繊維の粗さが目立っている。しかし、シリンダ温度145 ℃の場合、シート断面は押出ダイの出口形状と同じであり、シート表面の繊維配向も進んでいるので、光沢を有するほど平滑になっている。図4 各シリンダ温度で得られた大豆ミートの外観また、混練部シリンダ温度の違いによる大豆ミートの組織変化を簡単に確認するため120 ℃、130 ℃および145 ℃のサンプルを手で裂いて、組織化の進み具合を比較した。120 ℃のサンプルでは、細かい繊維が見られるが、繊維の塊が凝集した状態なので崩れやすく、押出方向に関係なく裂くことができる。130 ℃のサンプルでは、繊維が押出方向に配向しているため裂きやすく120 ℃のサンプルに見られた細かい繊維ではなく、鶏のささみのように太い繊維の束と細かな繊維の混ざった状態であった。145 ℃のサンプルでは、裂くのが困難であり、しかも硬かった。繊維は押出方向に配向しているが、それらが集まることで、大豆ミート内部に積み重なった繊維層が形成されているため硬くなったと推測される。また、シリンダ温度が100 ℃以下の段階で押出機先端部から採取されたサンプルは、原料と水の混ざった粘土状であり、水に溶かすと容易に分解する。以上のテスト結果から、大豆タンパクの組織化には、シリンダ温度が大きな影響を与えることが明らかとなった。次に、押出機内でどのような反応が起こり、大豆タンパクの組織化が進行していくのか、その流れを4つの段階に分けて説明する。まず、大豆タンパクの主成分はβ-コングリシニンとグリシニンであり、球形をしている。両主成分のアミノ酸含有量のうち大部分を占めているのがグルタミン酸とアスパラギン酸であり、両主成分の約45 %を占めているが、グルタミン酸が多い。また、主成分を比較するとシスチンの含有量はβ-コングリシニンが多い。このシスチン含量はジスルフィド結合(S - S結合)に関連し、大豆タンパクの形成に影響する(9)。このほかにも大豆の持つ天然タンパク質の構造は静電相互作用、疎水性相互作用、双極子相互作用、水素結合およびジスルフィド結合等の複数の力で形成されている。その中でも、押出機の冷却部における水素結合とジスルフィド結合の形成が、大豆タンパクによる肉様繊維形成に大きく関わることが知られている(10)。図5に推定される押出機内部における大豆タンパク組織化の流れを示す。第1段階では、原料となる脱脂大豆に水が加えられる。水分含有量が低いとき、脱脂大豆の大豆タンパクへの熱変性温度は180 ℃と高温側に位置している。しかし、脱脂大豆に対して10 % ~ 40 %の水が加えられると、大豆タンパクの熱変性温度が140 ℃ ~160 ℃付近になると報告されている(11)。この理由として、水が多くなると原料内の構成分子が動きやすくなるためと考えられている(12)。その結果、大豆タンパク組織化における二軸押出機のシリンダ温度設定が低くなり、運転にもメリットをもたらしている。原料が下流に搬送されて温度上昇してゆくと、水素結合が切断されて、球状の大豆タンパクの分子鎖が徐々に展開し、その内部に水が含まれてゆく。第2段階の高温高圧の溶融混練ゾーンでは、原料温度が日本製鋼所技報 No.75(2024.11)

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