日本製鋼所「技報75号」
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5. 大豆ミートの混練挙動予測技術報告食品用二軸押出機による大豆ミート製造プロセスと予測シミュレーション130 ℃以上に達するので、タンパク質の各成分は熱溶融し、他成分と分離する。この際、展開したタンパク質が低分子量へ細かく分解されるとともに、これらの相互作用が強くなるため、新たなジスルフィド結合や水素結合が形成される。反応の進行した大豆タンパクは急に粘弾性を増すため、押出機内の搬送には下流側のシリンダ温度をより高い温度に保ち、原料の流動性を維持する必要がある(13)。図6に混練ゾーンで発生するタンパク質の構造変化の模式図(14)を示す。シリンダ温度を高く設定することによって、αヘリックス(主鎖に含まれる原子間の水素結合による右巻きらせん構造)からβシート(分子鎖が隣り合って並んだ際に水素結合によって形成されるシート構造)、βターン、無秩序コイル等へのタンパク質の形状変化反応が促進するとされている。また、スクリュ回転数が高くなると、せん断が高まり、大豆タンパク質分子間のジスルフィド結合および非共有結合等の結びつきが、共有結合架橋に変化する可能性がある(13)。第3段階である冷却ゾーンでは、タンパク質分子の再配列およびタンパク質分子と小さな凝集体の整列による架橋が起こり、繊維構造が形成される。最後に冷却ダイを通過する際、繊維構造はダイ内部の粘度上昇によるダイスに接した部分から中心部への速度分布の不均一さによって、押出方向へ引き延ばされて、繊維状の構造が形成される。このようにして大豆タンパクの組織化が進むと考えられる。図5 押出機内部における大豆タンパク組織化の流れ大豆ミート製造においては、押出機内部における原料温度や圧力が大豆タンパクの組織化に大きな影響を与える。それゆえ、押出機内部の状況を知ることは、大豆ミートの開発や製造にとって大きな価値を持つ。ここでは食品用二軸押出機の混練挙動の予測シミュレーション技術について紹介する。本シミュレーション技術は、二軸押出機の樹脂混練プロセスにおける樹脂温度や圧力の予測のために開発されたが、高温時の大豆タンパクの挙動は樹脂のような熱可塑性を示し、流動特性が類似していることから、食品混練プロセスにも本シミュレーションが活用できると考えている。図6 タンパク質の構造変化の模式図(48)

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