日本製鋼所「技報75号」
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1. 緒  言2. コンター法の概略技術報告コンター法を用いた残留応力測定におけるFEMモデルの簡略化検討機械加工、熱処理あるいは溶接などによって材料に発生した残留応力は、寸法の安定性や疲れ強度などに影響をおよぼすので、残留応力の測定は重要である。表1に示すように、残留応力測定にはいくつかの手法があり、非破壊法であるX線応力測定法や、破壊法のひずみゲージ法等がよく知られている。しかし、X線応力測定法は物体の極表面のみの残留応力を測定できる手法であり、ひずみゲージ法はゲージを貼った箇所近傍のみの残留応力を測定できる手法であるため、厚肉部品内部の広範囲な残留応力を平易に測定できる手法ではない。一方、コンター法は汎用の切断装置、計測設備および数値解析を利用して、注目している断面に垂直な方向の2次元応力分布を得ることが可能な手法である(1),(2)。ただし、通常の機械部品は長手方向の断面の形状変化が複雑であり、コンター法を適用するためにはモ表1 各種残留応力把握手法の概略図1 コンター法の原理模式図デルの簡略化が必要である。しかし、モデルの簡略化が残留応力の評価に影響をおよぼすことが考えられる。そこで、本報告では、適用事例が少ない薄板溶接試験片(以後、試験片)にコンター法を適用し、モデル簡略化の影響を評価した。コンター法は、2001年に米国の Los Alamos 国立研究所で考案された、工業製品内等の残留応力分布の測定技術として、近年注目されている。本手法では、一般的な機械工場で汎用されている機器を使用し、部材内の注目している断面の垂直方向に作用する残留応力の2次元分布を得ることができる。以下に原理について説明する。図1の状態1のような応力分布をもつ板モデルがあると仮定すると、この板内の注目している断面において二つに切断する際、切断面の垂直方向に作用している残留応力場の分布が緩和され、状態2のように二つの切断表面は鏡面対称に弾性変形する。状態3は、この弾性変形した表面のX軸方向の変位分布を測定し、FEM解析で変位分布を強制的に元の形状に戻した状態であり、この解析で元の形状に戻すため必要な仮想の応力が計算される。具体的には、線形弾性応力解析により、状態2で得られた二つの切断表面の変位分布の平均値を、切断部品の FEM モデルの切断面に逆変位として与えることで得られる。なお、変位分布は微小であるため、FEMモデルは厳密な形状ではなく切断面が平坦な状態でも高精度な計算が可能であるといわれている。また、コンター法における切断時の弾性変形は、切断前の注目断面に垂直方向に作用する残留応力の緩和により生じたもののみと仮定するので、図1では注目断面における、X軸方向のみの残留応力評価となる。(52)

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