技術報告3. 試験片の準備(53)4. X線による試験片の残留応力測定コンター法を用いた残留応力測定におけるFEMモデルの簡略化検討本報告で対象とする試験片を図2に示す。SUS304ステンレス鋼板(縦150 mm × 横100 mm × 板厚3 mm)にTIG溶接にて、YS308溶加棒のビードオン溶接を3パスしたものを準備した。この試験片は座屈しており、非常に大きな残留応力が存在している。また、溶接部はY方向の幅の中央線から若干ずれて施工されている。一般的に溶接後の残留応力分布は、図3に示すように、溶接線方向(X軸方向)に対して、溶接部の中央付近では引張残留応力、溶接部から板幅方向にある程度離れた箇所では圧縮残留応力が発生することが知られている(3)。解析では、溶接部表面側において、コンター法でのX軸方向の中央断面におけるX軸方向残留応力分布が、図3に示す応力分布と様相が定性的に一致すること、特に溶接部表面側に引張残留応力が発生することについて検証を行った。図3 溶接部表面側における溶接後のX軸方向残留応力分布の模式図図2 試験片コンター法に先立ち、溶接部のX軸方向中央部におけるX軸方向の残留応力をX線応力測定法にて測定した。測定装置はリガク・ホールディングス株式会社製のAutoMATEであり、管球はCrである。応力測定位置は図4(a)に示す溶接部裏面のO-C間である。溶接部の裏面を測定対象とした理由は、溶接部表面は熱影響等で組織が不安定であり、残留応力の評価が難しいためである。なお、後工程に必要な基準面を設定するため、測定前に試験片のX軸方向両端部の一部を切断した。各切断位置は中央の切断予定位置から十分離れているので、サンブナンの原理より、コンター法における残留応力解析には影響しない。図4(b)に、X線による応力測定結果を示す。溶接部表面とは異なり、裏面中央部では、ほぼ残留応力が発生していないが、両Y軸方向に進むにつれて、圧縮残留応力が発生していた。図4 溶接部裏面におけるX線応力測定結果日本製鋼所技報 No.75(2024.11)
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