日本製鋼所「技報76号」
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技術論文(12)基板昇降機構はSPC内に搭載し、T-S間距離を164 mmから265 mmの範囲で調整できる。これにより、イオン電流密度を制御し、ターゲットの消耗やプロセス条件の変動に依存することなく、膜厚の均一性を維持することが可能となる。基板反転機構はロードロック室に搭載されている、基板やジグを真空中で連続して搬送・反転する機構であり、大気中に取り出すことなくARおよびHRの両面の膜形成を可能とする。基板反転および基板昇降機構を搭載したフォトニクスデバイス用ECRスパッタ装置の開発4. プラズマ特性と膜特性AFTEX-6500のECRプラズマ特性を把握するために、ラングミュアプローブ法を用いてイオン電流密度を測定した。引き出し口にある円筒型ターゲットのSPC側の端から100 mmの距離に、直径90 mmの電気的に絶縁されたステンレス製の円板を設置し、アルゴン(Ar)プラズマを発生させた後に、この円板に印加する負のバイアス電圧を-50 Vまで変化させ、流入する電流の関係を調べた。そこから飽和電流値を取得し、円板の有効面積で除してイオン電流密度を算出した。本装置は、ECRプラズマ室を2基(“ECR1”と“ECR2”)搭載している。それぞれのイオン電流密度の測定結果を図4に示す。測定条件は、Ar流量20 sccm、30 sccm、40 sccm、50 sccm、マイクロ波電力300 W、500 W、700 W、900 Wとした。図4の通り、イオン電流密度はマイクロ波電力が大きくなるに従って増加した。一方で、Ar流量を増加させるとイオン電流密度が増加する傾向であったが、40 sccmと50 sccmでは飽和した。また、図4(a)と(b)よりECR1とECR2は、イオン電流密度に大きな差がなくAFTEX-6200と同様の傾向であった。図4 イオン電流密度測定結果 (a)ECR1、(b)ECR2表1 新規開発ECRスパッタ装置と従来装置比較表2に、ECRスパッタ装置で主に使用されている膜種とそのターゲット材料、用途を示す(5)。表2 代表的なECR膜とターゲット材料および用途ECRスパッタ法では、純金属ターゲットを使用することができるため、プロセスガスとしてAr + O2ガスを導入すれば酸化物が形成でき、Ar + N2ガスの導入で窒化膜が、Ar + N2 + O2ガスの導入流量比率を変えることにより屈折率の制御可能な酸窒化膜が形成できる。実際に、半導体レーザでは、五酸化タンタル(Ta2O5)や酸化ハフニウム(HfO2)などの高屈折率膜と、二酸化シリコン(SiO2)や酸化アルミニウム(Al2O3)などの低屈折率膜を積層させて誘電体多層膜を形成することで、目的に応じた波長帯のHRコートとARコートを成膜できる(14)。

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