技 術 報 告(18)3. 研究内容概略二軸押出機 TEX® を用いた脱硫技術私たちの生活に欠かせない素材である。ゴムの種類は、ゴムの木の樹液であるラテックスを凝固させて加工した「天然ゴム」と、石油やナフサを主原料として化学的に合成した「合成ゴム」の二つに大別される。天然ゴムは世界で年間約 1200 万トン消費されており、その用途の約7 割以上が自動車用のタイヤである。また合成ゴムの消費量は年間約 1500 万トンであり、合計すると年間約2700 万トンにも及ぶ。(1)ゴムの需要が拡大し続ける一方で、廃棄ゴムのリサイクルが大きな課題となっている。廃棄ゴムに代表される廃タイヤは、日本ではその 9 割以上がリサイクルされている。しかしその内訳を見ると、6 割前後は熱利用、つまりサーマルリカバリーとされている。(2) サーマルリカバリーは、タイヤを焼却して発生した熱エネルギーを回収し、利用する方法である。廃タイヤをサーマルリカバリーすることで、有限資源である石炭や石油の代替となること、埋め立て処分場の圧迫を軽減できること等のメリットがある一方で、サーマルリカバリーは様々な有害物質を含むガスの発生や、二酸化炭素の排出が問題視されている。熱利用に次いで多い廃タイヤのリサイクル手法は原型加工利用、または再生ゴムとしての利用、つまりマテリアルリサイクルである。廃タイヤの原型加工利用は、タイヤ内のスチールコードや強化繊維などを取り除き、ゴム部分を粉砕し粒状にして、再生ゴムの原料やゴム成形品、舗装材等の原材料として再利用する方法である。また、再生ゴムとしての利用は廃棄物となったゴム原料を粉砕し、金属や繊維などの不純物を取り除いた後に、脱硫処理にて可塑性や粘着性を付与することで原料ゴムとして再利用可能な状態に調製したものである。これらのうち再生ゴム利用は、練り時間の短縮、押出作業性の向上など、加工・成形・加硫といった製造工程の効率アップや、コストの削減ができるなどの利点があるが、再生ゴムは耐衝撃性、圧縮永久ひずみ、耐屈曲亀裂性などが未使用原料ゴムに劣ることがある。(2) 近年では廃材の単なる再利用にとどまらず、新規バージン材料の代替としての高品質な再生材活用が求められており、脱硫技術の革新と高度化が急務となっている。2.2 ゴム再生手法と二軸押出機の適用性再 生ゴムの 製 造 手 法 には、PAN(Pressurized Air/Nitrogen devulcanization method)再生法や蒸解法(湿式法)、クレメーター法、ダイジェスター法などが挙げられるが、現在は PAN 法が脱硫手法の主流となっている。(3)PAN 法は、加硫ゴムを高温高圧下においてオートクレーブ内で処理し、架橋構造を熱的に切断することで、ゴムの再利用を可能とする手法である。特別な化学薬剤を使用することなく、蒸気や窒素雰囲気による反応制御が可能であること、処理に必要な設備が比較的簡素であり、既存の工業設備を応用できるため導入が容易であることなどから、これまで広範囲なゴム材料へ適用されてきた。一方で、処理はバッチ方式で行われるため生産性やスケーラビリティに限界があり、また揮発性成分や臭気物質への対応には脱揮処理設備などの追加投資も必要となる。これらの課題を踏まえると、PAN 法には高品質な再生ゴムの安定製造という観点で一定の限界があると考えられる。これに対し二軸押出機を用いた脱硫プロセスは、原料に対して高いエネルギーを効率的に付与できる点に加え、スクリュ形状や運転条件、シリンダ温度などを柔軟に調整することで、滞留時間や温度勾配をきめ細かく制御できるという特徴があり、優れたスケールアップ特性も含め高品質な再生ゴムの製造が期待される。また、二軸押出機は連続プロセスであるため生産性が高いだけでなく、脱硫前の原料の微粉砕工程や脱硫後の脱臭・脱揮工程を一つの装置で一体化して連続的に処理できる点において設備効率に優れた装置であり、品質安定性・運転効率・環境対応性の観点からも産業応用に極めて有利である。このように、二軸押出機は加硫ゴムの脱硫において、エネルギー密度・せん断応力・反応時間等を多次元的に、かつ精密に制御するための柔軟性と効率性を併せ持つ装置であり、PAN 法に代わる高品質脱硫の中核技術としての地位を確立する可能性を秘めている。3.1 研究背景当社ではこれまで、二軸押出機を用いた脱硫プロセスにおける混練技術の開発に取り組み、国内外で多くの納入実績を積み重ねてきた。近年では、リサイクル需要の高まりに伴い、さらなる高品質化へのニーズが増加していることから、これまで培ってきた再生ゴム製造技術のさらなる高度化を目指し、原点に立ち返って基礎からの見直しを進めている。本報告は、これらの背景のもと、最新の混練技術の知見や装置製造技術を活用し、原点回帰による見直しを経て実施された最新の研究活動の成果である。3.2 二軸押出機における脱硫プロセスの概要二軸押出機による加硫ゴムの脱硫プロセスは、①微粉砕部、②脱硫部、③脱臭部のそれぞれ役割が異なる三つの構成に分けて考えることができる(図 1 参照)。① 微粉砕部第 1 混練部に該当し、供給されるゴム原料を細かく均一化するための混練部である。微粉砕部で加硫ゴムを細かく均等
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