日本製鋼所「技報76号」
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技 術 報 告3. 分析結果食品用二軸エクストルーダーを用いた植物性タンパク原料の官能評価と機器分析による相関解析2.2 評価方法2.2.1 官能評価製造した植物性タンパク質は、官能試験によって評価した。官能評価とは、食品の美味しさに関して味覚を含めた五感(視覚、聴覚、 触覚、味覚、嗅覚)から数値化する方法である。官能評価は一般財団法人日本食品分析センターへ依頼・実施した。表 1 に示した基準条件にて作製した植物性タンパク質を評価基準とし、各条件で製造した植物性タンパク質を、試験評価者 12 名(男性 3 名 , 女性 9 名)が評価した。今回実施した官能評価は分析型とされ、試験評価者は評価者選定用基準臭(第一薬品産業株式会社)により嗅覚正常者と判断され、指定された水溶液の味が正しく識別できた者の中から選択された。なお、評価項目には食感に注目した「風味」「噛み応え」「舌触り」「弾力」「筋っぽさ」「解れやすさ」「しっとりさ」および対象となる大豆ミートの美味しさを示す「総合評価」の 8 項目を設定し、7 段階尺度(–3 ~ 3)で評価した(6)。植物性タンパク質の官能評価結果は、物性値に依存すると考え、機器分析を用いて空隙率・水分率・圧縮破断曲線を測定した。2.2.2 空隙率植物性タンパク質は製造条件によって、内部の水分が気化することで空隙が発生する。この空隙率を分析するため、各サンプルを押出方向に対して垂直方向に裁断し、その断面写真を撮影した。その後、画像解析ソフト(ImageJ)を用いて、断面写真における植物性タンパク質部分の面積と空隙部分の面積の割合から空隙率を求めた。2.2.3 水分率水分率は赤外線水分計(株式会社ケツト科学研究所製、FD-600)にて測定した。各条件で製造した植物性タンパク質100 g をミルで粉砕し、温度 135 ℃で 2 時間乾燥させ、水分を除去した後、加熱前後の重量差から水分率を求めた。2.2.4 圧縮破断曲線クリープメータ(株式会社山電製、RE2-3305C)で各サンプルの硬さや弾力を評価した(7)。測定時には治具とサンプル台の間へ 40×20 mm に裁断したサンプルを設置し、Φ 3 mm の治具でサンプルに接した地点から荷重をかけ、サンプルが破断するまでの圧縮破断試験を行った。この試験から得られる圧縮破断曲線から、最大荷重、荷重を与えた際の総エネルギー合計、弾性率、破断荷重、ひずみ率を評価した。2.3 解析方法官能評価と機器分析の相関性はピアソンの積率相関係数の算出によって行った。相関係数とは「2 つの変数の間にあ(25)図 2 総合評価と各官能評価との相関係数日本製鋼所技報 No.76(2025.11)る線形な関係の強弱を測る指標」(8)のことであり、この値から変数間の相関性を確認することができる。相関係数 r は、式 1 を用いて共分散をそれぞれの変数の標準偏差で割ることで求められる。この相関係数は一方のデータが増加すると他方のデータも増加する「正の相関」、一方のデータが増加すると他方のデータは減少する「負の相関」、データの増減に直線的な関連が見られない「相関がない」といった 3 つにわけることができる。これらの相関係数の尺度は 0.7 ≤ r ≤ 1 で「強い相関」、0.4 ≤ r ≤ 0.7「やや相関」、0.2 ≤ r ≤ 0.4「弱い相関」、0 ≤ r ≤ 0.2「ほとんど相関無し」となっている(9)。3.1 官能評価と機器分析の相関係数図 2 に官能評価 7 項目(風味、噛み応え、舌触り、弾力、筋っぽさ、解れやすさ、しっとりさ)と植物性タンパク質そのものの美味しさを判断する総合評価との相関係数を赤は正の相関、青は負の相関として示す。総合評価に対して、噛み応え、弾力、筋っぽさ、解れやすさが強い相関を持ち、噛み応えが柔らかく、弾力が弱く、筋っぽさがない、解れやすい植物性タンパク質が美味しいとされる傾向にあることが分かった。また、これら 4 項目の中でも弾力の要素が総合評価に強く影響していることが明らかとなった。食品を噛んだ際の噛み応えの柔らかさは弾力の弱さに関係し、筋っぽさがないことは植物性タンパク質の繊維が少ないことで形成される柔らかい構造から、弾力に通じると考える。このことから食品を口にした際の弾力が美味しさに起因する要素であることを確認した。

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