技 術 報 告食品用二軸エクストルーダーを用いた植物性タンパク原料の官能評価と機器分析による相関解析(27)図 6 水分量別の断面写真と破断曲線(a) 30 wt% (b) 50 wt%日本製鋼所技報 No.76(2025.11)隣接シリンダを 130 ℃に固定した場合、先端シリンダ温度を変更しても破断曲線に変化は見られなかった。これに対し隣接シリンダを 150 ℃に固定した場合、先端シリンダの温度によって破断曲線における荷重の増加傾向に違いが見られた。先端シリンダ温度が125 ℃の場合、ひずみ率 0 % ~ 40 %(噛み始め段階)、40 % ~ 80 %(噛み締め段階)では破断曲線の傾きが異なった。これは治具でサンプルを押した際、内部が柔らかいために流動変形することで荷重が減少するためである。先端シリンダ温度が低温の場合には噛み始めと噛み締め段階で破断曲線の傾きが異なり、シリンダ温度が高い場合はひずみ率の変化に対しサンプルの荷重が直線的に増加している。このことから隣接および先端シリンダ温度が植物性タンパク質の形成に影響することが分かった。3.3 水分量の影響図 6 に、水分量 30 wt%、50 wt% で製造した植物性タンパク質の断面画像と各サンプルを 5 回測定して得た破断曲線を示す。水分量 50 wt% の場合に対し、30 wt% の場合は破断曲線に大きなばらつきが見られた。一部のサンプルではひずみ率 80 % 付近で荷重が一度減少し、再び増加に転じる谷のような波形を示したことから、この変化は歯と歯の当たる直前での破断、つまり噛んだ際の歯切れであると考えられる。水分量 30 wt% の場合の断面写真ではサンプル内部に多くの空隙が見られ、断面積に対する空隙率は水分量 50 wt% の場合より高い。この空隙は、サンプルがダイから吐出され、圧力が解放される際に、繊維化した植物性タンパク質の層内部で水分が蒸気に変化することで発生していると考えられ、破断曲線のばらつきおよび歯切れ感に起因していると推測される。これは空隙がほとんど見られない水分量 50 wt% の場合の破断曲線ではばらつきが少なく、破断点を持たない結果とも一致する。このように空隙を有する植物性タンパク質は、噛むことで空隙が圧縮され、反発力が発生する(11)。そして、強く噛んだ瞬間に空隙を形成していた繊維層が歯で噛み切られ、空隙部分の反発力が小さくなる。シリンダ温度が低い場合には空隙がなく、柔らかいために、このような反発力は発生しない。これが植物性タンパク質を噛んだ瞬間の弾力に影響する要素の 1 つと考えられる。また、水分量 50 wt% の場合は 30 wt% の場合と比較して、ひずみ率 60 % で荷重が 15 N 程度であり、破断曲線が緩やかに曲がっていることから、内部が柔らかいことが分かる。このことから水分率の違いによる内部構造の変化を確認できた。次に水 分 量 4 0 wt % に設 定し、 先 端シリンダ温 度を125 ℃~ 155 ℃まで 5 ℃ずつ変更した場合のサンプルの水分率と弾力の評価点を図 7 に示す。各シリンダ温度によるサンプルの水分率の変化から、製造時に投入された水分量40 wt% を維持しつつもサンプル内の水分量は上昇していることが確認できる。また、官能評価からは、シリンダ温度の上昇によって水分率の上昇と共に弾力が高くなることが分かる。エクストルーダー内部ではシリンダ温度の上昇によって、タンパク質の各成分は熱溶融し、他成分と分離する。この際、展開したタンパク質が低分子量へ細かく分解されると共に、水分を取り込む。さらに高温・高圧化では天然タンパク質を構成している静電相互作用、疎水性相互作用、双極子相互作用等の相互作用が強まり、新たなジスルフィド(S − S 結合)結合や水素結合が形成される(12)。植物性タンパク質内の水分量の増加は、水素結合とジスルフィド結合の形成による繊維化の促進により、組織内に取り込まれているためと考えられる。
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