技術報告(35)日本製鋼所技報 No.76(2025.11)1. 緒 言当社の精錬工程に使用する取鍋は図1のように、側面および底面共に鉄皮側より裏張煉瓦とワーク煉瓦が施工されている。ワーク煉瓦は精練工程時に溶鋼やスラグによる溶損によって損耗していくため、使用後に都度確認を行い状態に応じて補修や交換を行っている。また取鍋は、取鍋ごとに施工する耐火物メーカーが異なることから煉瓦組成や施工方法は均一でなく形状も異なるため、湯量や鋼種に応じて使い分けを行っている。3Dレーザースキャナーを用いた取鍋耐火物の残厚測定表1 測定器仕様従来の煉瓦溶損量の測定は、煉瓦交換前にレーザー距離計を用いて各段の内径を計測することで張替え後の内径と比較して煉瓦残厚を算出している(図2)。この方法では煉瓦の溶損による凹凸を精度よく測定できないことに加えて、局所的に最も溶損が大きい箇所を目視にて判別し計測するため精度が低く正確な値を把握できていない。またレーザー距離計での計測では取鍋内に作業者が入る必要があるため、使用直後の熱間状態では測定できず頻度が少ない。そのため取鍋から離れての目視確認や使用回数での管理を行ってきたものの、作業者の経験と感覚による部分が大きく、経験を積んだ特定の作業者のみの対応となるため多能化や作業負荷平準化の障害となっている。また耐火物の残厚に余裕がある場合にも定量的な溶損量が把握できていないため、前倒しでの煉瓦交換となることが度々生じている。直近の耐火物コスト高騰もあり、煉瓦交換頻度の低減につながる耐火物溶損量の定量的な把握が喫緊の課題であった。図1 取鍋の耐火物施工状況図2 レーザー距離計を用いた従来の煉瓦測定方法2. 3Dレーザースキャナーを使用した耐火物厚さの測定方法耐火物厚さ測定技術は3Dレーザースキャナーを用いた方法が一般的になりつつあり、取鍋にも広く適用されている。当社が導入した測定機器の仕様は表1の通りとなっており、非接触かつ短時間で広範囲を測定可能である。そのため図3のように取鍋から離れた位置で測定できる。また図4のように3Dレーザースキャナーは1.9 mm間隔で座標データを得ることができ、レーザー距離計を使用した従来方式と比較して凹凸を精度よく測定することが可能となっている。取鍋内面を正面から計測するだけでは死角が生じる恐れがあるため取鍋の正面に加えて、図5のように左斜め前面、右斜め前面の計3箇所で測定しデータを合成している。また輻射熱の影響によって機器損傷が生じないよう取鍋から距離を取り対応している。3Dレーザースキャナーを実操業にて使用する際、煉瓦溶損量を測定してから可視化するまで膨大なデータを整理する必要がある。さらに取鍋容量が30 t~150 tとなり取鍋の形状が異なることや、取鍋整備場所が工場内に3箇所あるため基準データを複数準備する必要がある。特にデータ整理は、①測定データの合成、②測定データと基準データの合成、③測定データと基準データの差より溶損量を算出、④溶損量のカラーマップ化の4ステップに分かれているが、手動操作で都度行うことは作業負荷が非常に大きい。よって3Dレーザースキャナーとあわせて、耐火物残厚測定システムを導入しデータ整理に伴う業務負荷の極小化を図った。
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