技 術 報 告3. 長尺軸材製品への噴水焼入れ適用4. ロータシャフトへの噴水焼入れ適用(41)パルス幅変調制御による噴水焼入れ法の開発4.1 酸化スケールの影響噴水焼入れ中の表面熱伝達条件に酸化スケールが与える影 響を調 査した。 供 試 材には変 態 潜 熱の影 響を排除することを目的にオーステナイト系ステンレス鋼を選定し、φ 80 mm×320 mm に加工したうえで内部温度測定用にドリル穴加工を施し熱電対を挿入して内部温度を測定した。高 Cr ロータは一度の焼入れ加熱によって約 0.35 mm 程度のスケール層が生成することがわかっており、ステンレス鋼に 0.3 5mm のスケール層を生成させるには事前試験より 1100 ℃× 13.5 Hrs. 必 要と判 明した。 図 11 に 1100 ℃で 13.5 Hrs. 保持して酸化スケール 0.35 mm とした試験材と 0.5 Hrs. 保持の試験材に同一噴射流量密度で噴水焼入れした結果を示す。0.5 Hrs. 保持ではライデンフロスト現象が発生するが、13.5 Hrs. 保持では発生しない。これは高温加熱面の表層に熱伝導率の低い酸化スケール層が付着することで表面温度が下がり、液滴群の到達を容易にしているためである。その結果両者の冷却カーブに差が生じている。したがって、ライデンフロスト現象を抑える図 8 長尺軸材用噴水焼入れ装置図 9 引張強さと吸収エネルギーの関係図 10 曲がりの比較日本製鋼所技報 No.76(2025.11)開発した噴水焼入れ法を実際に大型製品へ適用するために、図 8 に示す長尺軸材用噴水焼入れ装置を製作した。本 装 置を用いて、φ 250 / φ 300 mm、全 長 約 6.5 m のNiCrMoV 鋼製長尺製品に噴水焼入れを行った。なお、噴射流量条件は 2 章で得た知見を参考にした。噴水焼入れを行った製品の機械的性質を図 9 に示すが、油焼入れ品と同等の強度―靭性バランスが得られていることがわかる。図 10には油焼入れと噴水焼入れの曲がりの比較を示す。最大曲がり量は同等であったが、平均では噴水焼入れの方が大きかった。これらはノズルから噴射される水の重なりが不均一であったためと推定しており改善が必要であるが、噴水焼入れされた製品は油焼入れ品と同様のプレス矯正が実施され、その後の機械加工では問題なく製品形状を確保できたため製品として出荷された。従噴水焼入れを高 Cr ロータへ適用することを検討した。高 Cr ロータは焼入れ加熱温度が高く加熱保持時間も長いため生成する酸化スケール層が厚く、表面熱伝達条件がこれまでと異なる可能性がある。また、ロータには段差があり径の大小によってノズルから冷却面までの距離が変化するため、同じ噴射流量密度でも液滴の当たる勢いに差が生じる。そのためライデンフロスト現象を抑えながら噴水焼入れを行うには噴射流量密度だけでなく噴射打力についても考慮する必要がある。さらに高 Cr 鋼は割れやすいため実機サイズの試験材を製作して繰り返し冷却試験を行うことが困難と推察し、事前に小試験材による試験を実施した。
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