日本製鋼所「技報76号」
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技 術 論 文(4)4. 溶接残留応力解析低合金鋼の溶接残留応力解析の精度に及ぼす変態塑性の影響4.1 相変態の定式化非定常熱弾塑性解析で相変態を定式化するには、内部変数として時間の進行に伴う組織分率を計算する必要がある。Fig. 7 に相変化の扱い、Table 4 に変態温度を示す。本研究で取り扱う2.25Cr-1Mo-V 鋼(調質材)は母相がベイナイトで、溶接入熱によりAc1 変態点以上に加熱されると母相がオーステナイト変態し、その領域は冷却過程でベイナイト変態して溶接熱影響部(HAZ)となる。母相とHAZ はいずれも広義ではベイナイトだが、両者は変態時の冷却速度が異なることから降伏強度が異なるため、組織分率を計算する際は両者を別の組織として扱った。具体的には、母相のベイナイト(B0)、オーステナイト(γ)、HAZ のベイナイト(B1)の 3 つに分類した。なお本報では、母相のベイナイトを母相、HAZ のベイナイトを単にベイナイトと呼び、溶接金属(WM)は HAZと同 様に扱った。2.25Cr-1Mo-V 鋼 の 溶 接 中において、新しい組織として出現するのはオーステナイトとベイナイトである。それらの組織分率は、昇温時のオーステナイト組織分率ξγが式(4)、冷却時のベイナイト組織分率ξB1 は式(5)に示す Koistinen-Marburger 則(10)を修正した式で定義した。ここで、Ac1 はオーステナイト変態開始温度、T は現在温度、Ac3 はオーステナイト変態終了温度、BS はベイナイト変態開始温度、Bf はベイナイト変態終了温度、αB1 は係数である。また、母相の組織分率ξB0 は各組織分率の総和が 1となるように式(6)を用いて計算した。次に、相変態で生じる変態膨張と変態塑性を定式化するために応力 - ひずみ関係式を導出した。変態膨張と変態塑性を定義するには弾性ひずみεe、塑性ひずみεp、熱ひずみεth の他に変態膨張ひずみεm と変態塑性ひずみεtp を考慮する必要がある。それらを考慮すると、時間増分Δt で生じる全ひずみ増分Δεは式(7)で表される。ここで、Δεe は弾性ひずみ増分、Δεp は塑性ひずみ増分、Δεth は熱ひずみ増 分、Δεm は 変 態 膨 張 ひ ず み 増 分 、Δεtp は変態塑性ひずみ増分である。また、Δεtp は Denisらが提案した式(8)(11)で定義した。Table 4 Transformation temperatures of the test material.Fig. 7 Phase change treated in this study.ここで、S は偏差応力、K は変態塑性係数である。河原木らはΔεtp を陽的に計算した場合、インクリメントあたりの最大温度変化許容量ΔTmax が 100℃を超えると正確な解析はできないが、陰的に計算するとΔTmax が 200 ℃でも誤差が小さく解析精度が良いと報告している(12)。そのため、本研究でもΔεtp を陰的に計算し、式(9)に示すリターンマッピング方程式を用いた。ここで、σ−trial は試行相当応力、Δε−p は相当塑性ひずみ増分、G は横弾性係数、σ y は降伏応力である。一方で、変態塑性は弾性域でも起こる現象であるため、弾性域では式(10)のリターンマッピング方程式を用いた。ここで、Δεtp は相当変態塑性ひずみ増分、σ−インクリメント終点における相当応力である。式(9)および(10)のリターンマッピング方程式を Newton-Raphson 法で数値的に解き、Δσ−p およびΔσ−tp を決定して応力とひずみを更新した。4.2 解析方法2 章で示した溶 接 試 験 体の残 留 応 力と比 較するため、FEM 解析を行った。解析には有限要素解析ソフトウェアABAQUS2019 を用い、前節の解析手法はユーザーサブルーチン UMAT をコーディングして実装した。溶接残留応力解析は非定常熱伝導解析と非定常熱弾塑性応力解析による弱連成解析で行い、溶接試験の余盛除去を考慮するため、非定常熱弾塑性応力解析の最終ステップでは余盛に相当する要素を削除して応力再配分の計算を行った。Fig. 8 に解析モデルを示す。メッシュモデルは溶接線直角方向(y 方向)の対称性を考慮して 1/2 モデルとし、電流 I、n+1 は現在の

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